研究概要 |
口腔癌は高齢者に高発する癌腫であり,今後の高齢化社会を迎えるにあたり患者数が増加することが見込まれている.早期口腔癌は5年生存率が80~90%以上の報告が多く,良好な予後が見込めるが,進行癌では40~60%と予後不良である.種々の観点から治療法の改善が検討されて来たが,ここ数十年治療成績は殆ど改善されていない.この背景には,進行癌の症例数が減少していないこと,悪性度の高い癌,すなわち,局所浸潤性の高い,高転移性の癌腫が依然として十分に制御できない問題点が挙げられる.細胞表面の粘液糖蛋白の糖鎖構造は癌化により変化をきたし,浸潤・転移の悪性挙動に重大な影響を与える.代表者らは口腔癌の臨床標本の解析と臨床経過に関するデータベースの構築し,口腔癌では糖転移酵素のN-アセチルグルコサミン転移酵素V(GnT-V)が高頻度に発現している症例が多いとの成績を得た.また,GnT-V発現症例と非発現症例に関する術後予後については解析中である.本研究では,口腔癌におけるGnT-V発現の腫瘍生物学的意義を悪性挙動の点より解明していった.口腔癌細胞株への糖転移酵素GnT-Vの遺伝子導入と導入細胞のクローニングに時間を要していることより,先に遺伝子導入が完了している胆嚢癌細胞にて形質変化を検討した.siRNA処理を行った細胞株3種類を用いた実験では,細胞増殖能,皮下腫瘍形成能,皮下腫瘍における血管密度(CD31染色)及び肝転移能は,有意にGnT-V発現レベル及び活性値と相関する結果となった.胆嚢癌細胞株を使用した実験において,GnT-V発現及び活性値と増殖能,血管新生能,肝転移能は有意に相関することから考察すると,胆嚢癌細胞の悪性挙動とGnT-V発現の強い相関が証明された.胆嚢癌におけるGnT-Vの発現は,腫瘍生物学的悪性度を反映する因子であると考えられた.次年度には,口腔癌に関する検討を行う.
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