研究課題/領域番号 |
22390388
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
平塚 博義 札幌医科大学, 医学部, 教授 (50165180)
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研究分担者 |
出張 裕也 札幌医科大学, 医学部, 助教 (00381260)
宮崎 晃亘 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (10305237)
荻 和弘 札幌医科大学, 医学部, 助教 (40433114)
佐々木 敬則 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (50548732)
仲盛 健治 札幌医科大学, 医学部, 講師 (60295334)
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キーワード | 口腔癌 / βカテニン / 低酸素 / EMT / 化学療法 |
研究概要 |
低酸素環境と化学療法感受性の関連を調べる目的で、5種類の口腔扁平上皮癌細胞株(HSC-2,HSC-3,HSC-4,Ca9-22,SAS)を用いて低酸素ストレス、グルコース飢餓ストレスのアポトーシス誘導能を検討した.その結果,HSC-4を除く4種類の細胞株ではグルコース飢餓ストレスでかつ低酸素ストレスの方がCDDPによる細胞増殖抑制の濃度依存性を認めた.しかしながら,グルコース飢餓ストレスよりもグルコースが存在する環境の方が細胞周期解析ではsub-G1 populationの増加を認め,Westernblotではcleaved-caspase 3の発現を認めたため,他の条件下よりもアポトーシス誘導能が高いと考えられた.グルコース飢餓条件のみではアポトーシスに特徴的なsub-G1 populationを認めなかったため、低酸素環境が化学療法感受性に強く影響していることが示唆された。このCDDP誘導のアポトーシスへの高感受性は卵巣癌などでも観察されており,細胞種特異的な現象ではないことが明らかとなった.βカテニンの口腔癌組織内での発現分布についての詳細を免疫組織染色で確認したところ、発育先進部の一部で核への移行が認められ、低酸素マーカーであるHIF-1αの発現分布と関連があることが見いだされた。また、リアルタイムPCRによる解析では、低酸素処理した細胞株でHIF-1α、上皮間葉移行のマーカーであるTWIST、βカテニンの細胞内局在と強く相関するE-カドヘリンのメッセンジャーRNAレベルでの発現に逆相関があることが見いだされた。以上の結果から、低酸素環境が化学療法感受性やEMTを介した浸潤・転移に大きくかかわっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
βカテニンの口腔癌組織内での発現分布についての詳細を免疫組織染色で確認したところ、発育先進部の一部で核への移行が見られ、低酸素マーカーであるHIF-1αの発現分布と関連があることが解明された。in vitroの検討では低酸素状態においていくつかの口腔癌細胞株ではそのマーカーであるHIF-1αの発現ステイタスが異なり、この差が口腔癌細胞における抗がん剤に対する応答性や細胞増殖に影響を及ぼすことが示唆された。また、リアルタイムPCRによる解析では、低酸素処理した細胞株でHIF-1α、上皮間葉移行のマーカーであるTWIST、βカテニンの細胞内局在と強く相関するE-カドヘリンのメッセンジャーRNAレベルでの発現に逆相関があることが見いだされ、現在はこれらの関係とそのメカニズムについて解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
RT-PCR法でE-カドヘリン、β-カテニンの存在及び免疫染色により口腔がん組織におけるE-カドヘリン、β-カテニン及びp120ctnタンパクの組織内局在を解析する。リアルタイムPCR法を用いて遺伝子発現量を解析する。また、p120ctnタンパクのリン酸化解析を行う。癌化に伴って突然変異した遺伝子産物がMHC分子により提示されCTLの標的になることがあり、これががん特異抗原である。β-カテニンは代表的なT細胞認識ヒト腫瘍抗原として認識される。基礎実験においては口腔扁平上皮癌由来細胞株SASとCa9-22においては、β-カテニンは正常な細胞内局在を示さず、核内に集積することを確認しているので、この2株のHLAタイピングを行う。培養細胞のHLAとタイプがマッチした健康ボランティアより末梢血を採取し、リンパ球と樹状細胞を採取し、CTLクーンを樹立し培養細胞株の抗原となり得るタンパクを同定する。口腔がんにおけるWnt/βカテニン経路に関する研究では、APCの遺伝子変異、β-カテニンの細胞質・核内局在と遺伝子異常に関する報告は散見されるが、臨床的に検討を加えた報告はなく、しかもWntシグナル経路における分泌型関連蛋白(SFRP)の遺伝子異常・DNAメチル化異常の解析を行った研究は我々の報告を除いて認められていない。本研究では、臨床検体を対象にCTNNB1(β-カテニン)遺伝子のexon3、APC遺伝子のexon16にあるmutation cluster regionをダイレクトシークエンスして変異解析を行う。また、RT-PCR法により口腔がん細胞におけるCDH1(E-カドヘリン)、SFRP及びWnt遺伝子の発現を解析する。SFRP遺伝子はDNAメチル化阻害薬で処理後にも発現を解析し、処理前後での発現の変化を比較検討する。さらに、Sodium bisulfiteによってDNAを処理し、metllylation-specific PCR (MSP)法を用いてCDH1及びSFRP遺伝子プロモーター領域のメチル化解析を行う。実施が可能な症例では、bisulfiteシークエンスによる詳細なメチル化解析を行う。
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