研究概要 |
小児口腔内より得たプラークおよびS.mutans臨床分離株の性状を検討し,以下の結果を得た。1.プラーク中の口腔レンサ球菌に占めるS.mutansの比率が高くなるに伴い齲蝕罹患歯率が上昇し,プラーク中のS.mutansの比率が齲蝕重症度に大きく関わっていることが明らかになった。2.高齲蝕群から分離されたS.mutansは,酸産生能,耐酸性能が高く,また,酸性環境下でのgtfBのmRNA発現量が増加していた。3.低齲蝕群から分離されたS.mutansの酸産生能は,高齲蝕群から分離されたS.mutansの酸産生能と同程度であったが,菌自体の耐酸性能は低く,また酸性環境下でのgtfBのmRNA発現量も中性環境下と比較して減少した。 今回の結果から,プラーク中のS.mutansの比率が齲蝕重症度に関連しており,高齲蝕群,低齲蝕群から得た臨床分離S.mutansの性状は,特に酸性環境下における齲蝕関連遺伝子の発現量に大きな違いがあることが示された。一方で,酸産生能については両群に明らかな差は認められなかった。 今後は、耐酸性のみではなく、その他の病原性因子(菌体外多糖合成酵素(gtf)やペプチドグリカン分解酵素(Automutanolysin))の産生能などについても明らかにし、プラークエコシステム内におけるS.mutansの役割や、環境の変化に伴う病原性の変化について明らかにする予定である。 一方,ラット齲蝕実験モデルでのAmlの齲蝕抑制効果についての研究ではプラーク形成阻害の傾向が認めら,齲蝕抑制の可能性が示された。またラット齲蝕抑制効果を明らかにしている生薬由来のオレアノール酸を多く含んでいるブドウ粕エキスのパミス抽出物について,S.mutansに対する効果を調べており,タブレット型菓子でのヒト臨床研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S.mutansの酸性環境下での生態について,遺伝子発現を調べることによって僅かではあるが明らかになった。また抗齲蝕性物質であるAmlのラット齲蝕誘発実験で成果が得られたこと。さらに他の抗齲蝕物質であるオレアノール酸の菓子への添加によるヒトプラーク形成抑制実験の準備ができたことは,本件が全体に前進したこと示しており,満足できる。
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今後の研究の推進方策 |
プラークエコシステム内におけるS.mutansの役割や、環境の変化に伴う病原性の変化について,ある程度データが出ており,今後さらに確認実験を行ってまとめる予定である。Amlのラット齲蝕実験についても,プラーク形成阻害効果を確認したので,統計学的解析を行って,結論を出す予定である。ラット齲蝕抑制効果を明らかにしている生薬由来のオレアノール酸を多く含んでいるブドウ粕エキスのパミス抽出物について,S.mutansに対する効果を調べており,タブレット型菓子でのヒト臨床研究を行う予定である。さらにS.mutansへの抗菌作用,抗glucosyltransferaseの作用機序を遺伝子レベルで解明できればと考えている。
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