研究概要 |
高齢化にともなう心身の機能障害は世界的な問題であり、要介護状態になるのを防ぐ要因の究明が望まれる。口腔の健康は、心身の機能障害に関連するという報告があるが、これまで十分に関連要因を考慮した上で要介護状態の発生との関連を調べた研究は無かった。特に、日本で行われた研究では、歯の健康が良い人は経済状態が良く病院に行きやすいといった可能性の考慮がされていなかった。歯の状態と噛み具合と、要介護状態の発生との関連を明らかにすることを目的として追跡調査を行った。4年間追跡できた4,425名のデータを用いて,要介護状態が発生するまでの日数と,歯数と咀嚼能力との関係を検討した。 調査期間中に519名(11.7%)が要介護状態になった。歯が19本以下の人(14.0%)や、咀嚼機能が低い人(21.5%)で要介護状態になる人が多い傾向にあった。 年齢が高い人や全身の健康状態や生活習慣(喫煙・飲酒・運動)や社会経済状態が悪い人に「歯が19本以下の人」や「良く噛めない人」が多いため,これらの違いや性別を統計学的な方法で考慮した場合(つまり全身の健康状態や生活習慣や社会経済状態が同等だとしても),歯が20本以上の人に比べて,19本以下の人で要介護状態発生の危険性が21%増加した(Haza rdratio;1.21、95%信頼区間;1.06-1.40)。しかし,咀嚼機能と要介護の関係は、全身の健康状態などの変数における違いにより説明されてしまい、有意な関係は示されなかった。 この研究の結果,歯を失うことによって,高齢化社会の健康および財政上の問題となっている要介護状態発生の危険性が高まることが明らかになった。歯を失う原因となる歯周病などの炎症や、血管に侵入した口腔内細菌が、脳血管に影響を及ぼして脳卒中を発生させて機能障害を発生させることや、炎症反応が認知機能に影響をすること、栄養状態が悪化することなどがメカニズムとして考えられる。
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