研究実績の概要 |
高齢者の残存歯は認知機能や身体機能と関連することが先行研究より示されている。知的活動と身体的活動を通してコミュニティーで独立した生活が行えることを示す手段的日常動作(Instrumental Activities of Daily Living、以下IADL)と口腔状態の関連を示した研究は、横断研究しか存在しないことから、高齢者の残存歯がIADLに与える影響を前向きに調査することとした。 日本老年学的評価プロジェクト(JAGESプロジェクト)の2006年度調査と2010年度調査のパネルデータを用いた前向きコホート研究を実施した。対象者は、要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者とした。調査は自記式質問紙を郵送して行った。 共変量は性、年齢、居住地、婚姻状態、家族構成、教育歴、等価所得、BMI、既往歴、主観的健康感、喫煙状態、アルコール摂取頻度、抑うつ状態、外出頻度、口腔乾燥、味覚異常、主食と副食の摂取量の変化、ベースライン時の各IADLスコアを用いた。 これらの変数を用いて、二項ロジスティック回帰分析を行った。4,507名(追跡率56.0%)を解析に用いた。歯が20本以上ある者と比較して、19本以下の者は共変量を調整しても有意にIADLスコア低下のリスク比が高い傾向にあった(歯が19本以下で義歯使用:Risk ratio=1.13, 95% CI= 1.03, 1.24、歯が19本以下で義歯不使用:Risk ratio=1.18, 95% CI= 1.02, 1.36、reference:歯が20本以上ある)。悪い口腔状態は、IADLスコアの低下と関連していることが示された。高齢者の口腔状態を改善することでIADL低下を和らげる可能性があることが示唆された。
|