研究課題/領域番号 |
22390429
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研究機関 | 財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
中山 優季 財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 主任研究員 (00455396)
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研究分担者 |
小柳 清光 信州大学, 医学部, 教授 (00134958)
長尾 雅裕 財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (60466208)
清水 俊夫 財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (50466207)
望月 葉子 財団法人東京都医学総合研究所, 運動・感覚システム研究分野, 研究員 (80267054)
長谷川 良平 独立行政法人産業技術総合研究所, ヒューマンライフテクノロジー研究分野, 研究員 (00392647)
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キーワード | 神経科学 / 筋萎縮性側索硬化症 / 難病看護学 / 意思伝達支援 / 生体信号 |
研究概要 |
本研究の目的は、人工呼吸器装着筋萎縮性側索硬化症(ALS)者に対する生体反応を用いた意思疎通方法の開発と、探知された生体反応の正当性を、病態・臨床経過を踏まえ集学的に検討することである。2年度は、以下の成果を挙げた。 1.対象の療養経過及び意思疎通に影響する症状の出現傾向に関する検討 意思疎通に影響する症状の出現傾向に関する調査を実施した。症状は出現・緩和した例がともにあり、不可逆的ではなく、経年追跡の必要性が示唆された。 2.生体信号を利用した意思伝達装置試用と看護支援 対象への介入調査(ニューロコミュニケーター・BGI・光トポグラフィ)を継続した。 ニューロコミュニケーターは、8例の対象に実施し、視覚刺激の提示方法として、場所選択式と紙芝居方式を取り入れ、視野の狭い対象における試用の可能性を拡げた。さらに、P300を用いる他のBCIについて5例に試用し、眼球運動正常例、パソコンを介した意思伝達を行っている者で可能であった。光トポグラフィについて、4例で試行し、2例で平均85%と良好な結果であった。ともにステージIV・Vであることを考えるとTLSでの唯一の意思伝達手段として評価できた。1チャンネルの製品版で継続試用を実施中である。 3.神経学的検討 1・2の対象者について、正中神経刺激体性感覚誘発電位(SEP)・脳波・神経伝導検査・MRIによる評価を継続した。SEPではステージVになるにつれ,皮質成分の振幅低下,潜時延長が確認され,感覚機能の低下が確認された。また脳波では一部の症例で徐波化することを確認し,MRI上の脳萎縮と相関することを確認した。 4.病理学的検討 (1)意思伝達の程度に基づくステージ分類に従い、人工呼吸器装着29例の臨床・病理所見を検討した。ステージI~Vへと病変が拡大する傾向はなく、症例ごとに終末像は異なる可能性があり、stage Vになる症例は病変の進行が速いことが確認された。 (2)ステージVの7例の大脳について、保たれている神経経路を検索した。視覚路、扁桃体は保たれる傾向を示し、TLS-ALS症例へのBMI使用の入力刺激として、視覚系と嗅覚系を活用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
意思伝達の程度に基づくステージ分類を提唱したことで、臨床・病理の対象を同じ評価軸で、検討することが可能となり、効率的に臨床経過の追跡から病理像の推定が行えるようになった。このため、ステージVは、人工呼吸器装着までが早いことを示す(投稿中)など、当初の目標以上の成果を上げている。一方、入院期間の短縮等により、生体信号を用いた機器の試用や神経生理学的検査の実施が入院中に行えないケースがある。このため、機器の正当性と神経学的評価の照合が全対象について実施できておらず、試用機器の種類の増加や地域対象者での入院評価の実施等により補完をしている。
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今後の研究の推進方策 |
意思伝達の程度に基づくステージ分類を利用し、臨床・病理対象を統合し、ステージごとの進行の違いについてを統計学的に分析する。さらに、意思伝達に影響を与える症状調査の成果を踏まえ、超進行期における各出現症状に関する客観的評価法(スケール化)の検討を行う。神経学的検査と病理学的検索を統合し、ステージ別の特徴から病変進行過程を明らかにする。 生体信号を用いた意思伝達装置の適応評価について、入院期間の短縮等により、全例で施行できていない課題に対しては、意思伝達装置の試用を在宅の場に広げるとともに、地域対象者への入院評価機会を提供すること、さらに、神経学的評価を在宅でも行えるように、院内の在宅診療と連携する。さらに、複数の機器で継続試用を行い、改良点を開発者へフィードバックし、超進行期での適応を明らかにしていく。
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