研究課題/領域番号 |
22401007
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
加藤 久美 和歌山大学, 観光学部, 教授 (30511365)
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キーワード | Environmental Ethics / Sustainability / Norm / Universality / Diversity |
研究概要 |
本研究は「環境持続性」理念の「普遍性と多様性」を、海洋資源利用における日豪比較研究を通して分析することを目的とする。和歌山県太地町、西豪ブルーム、アルバニーを拠点とし、海洋資源利用、関連の地域社会・文化を調査してきた。調査を通して、初期移民の歴史をも共有する両国、両地域には持続的資源利用の普遍性と多様性の両面を見ることができた。対象資源である捕鯨他の海洋資源は、今日国際間論争が続く環境問題の一つであり、メディア報道、一般世論では日豪はグローバルレベルで大きく二分される見解の両極に位置づけられ、それは地域社会の日常生活にも様々な影響を与えている。しかし、メディア報道分析,現地調査によれば、二極化する意見、その対立は、情報不足、あいまいさによる「作り上げられたイメージ」という表面的なものであることがわかった。また、世界の近代捕鯨の歴史を見ると「捕鯨」が二つの関係性~1)国家間関係、2)人間と自然環境との関係性~に大きな影響を与えて来たことがわかる。オーストラリアを事例とすると、南半球の「島」であるオーストラリアにとって、世界(北半球),特にイギリスとの関係性を保つことは必須であり、捕鯨の始まり、終焉共にイギリスの影響を強く受けている。また、最大のほ乳類である鯨は「海のモンスター」から「高度な知能を持つ、巨大で崇高な生き物」更に美しい環境のシンボルと変わっていった。それは環境保全への意識の高まりと時期を同じくする。一方日本にとって、捕鯨は日本が世界で秀でる、特に敗戦後「他国よりも勝る」機会を与えた。鯨が食用とされたことは、鯨油、肥料の利用のみを目的としていた諸国とは全く違う関係性を示している。以上二点が現時点での大きな成果である。2011年、東北沿岸では震災により漁業が壊滅的被害を受けた。本研究で漁業文化に関する日本特有の精神文化を見いだすことが持続性ある漁業の未来に貢献することを願う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本調査により、海洋資源の新しい利用方法として「非消費利用」すなわち漁ではなく、ホェールウォッチングなどレクレーション、観光という可能性が、漁業の「衰退」に光を与えていることがわかる。それは、漁師など資源利用者が持つ環境知識,環境責任、精神文化、倫理を将来に伝え生かす有効な手だてである。それはまた、観光が「環境教育」「環境責任の啓蒙」という重要な役割を果たし得ることを明示し、本研究の今後の指標となると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記「資源利用と観光:環境教育、環境責任の啓蒙」という将来的課題、また、東日本大震災で甚大な被害を受けた沿岸漁業への研究貢献の責任を念頭に置き、今年度は本研究の成果が持続可能な資源利用にどのように貢献できるかをまとめていく。その一つの重要な方向性はブルーツーリズムという新語が出来ていることにも明らかなように、自然体験、環境教育、環境意識向上という視点を持った新たな観光の形が注目され、資源利用の新しい一つの形とされていることにある。これは漁業従業者がその知識や技術を未来に受け継いで行く一つの重要な手段であるとも言え、伝統知識と将来的持続性に貢献するカギは観光との結びつきにあると言え、本研究の発展性はその可能性をも追求していくことであると言える。オーストラリアでは「漁業から観光へ」の経験が深く、現地調査は重要な情報を提供することになると考えられる。
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