本年度の中心的課題は「浦城県山下方言および臨江方言の調査・データ入力」であった。 山下方言については昨年度予備的調査を行っていたのでその基礎のもとに調査を進めたため、字音調査、語彙調査、例文調査とも完了し、同音字表もほぼ完成の状態に近づくところまで進めることができた。語彙的には石陂方言に近いが音声的には相当程度浦城県城の呉語の影響を受けている。全濁入声の多くが有気音化する特徴は臨江と共通する。咸撮、山攝の主母音にaとeの中間の母音が現れるが、この特徴はびん北語としては非常に稀なものである。 臨江方言についても、平成九年度~十年度の在外研修期間中に予備的な調査を行っていたので、順調に調査を進めることが出来た。山下方言と同様、字音調査、語彙調査、例文調査とも完了し、同音字表もほぼ完成の状態に近い。この方言はおそらくびん北区方言の特徴をもっとも多く失っているびん北区方言である。その一方で他のびん北区方言では同一韻母の「開ける」と「立つ」が異なる韻母で現れるなど、他のびん北区方言で失われた特徴を保存していると目されるケースもある。全濁平声の分裂も「頭」のように有気音化するもの以外はすべて陽平乙相当の調類で現れるなど、他のびん北区方言と異なる変化過程を経たと思われる音韻変化も観察される。きわめて特殊なびん北区方言であると言えよう。 以上二方言の調査が非常に順調に進んだので、仙陽方言の調査にも着手した。県城の方言ときわめて近い関係にある呉語方言の一種である。字音調査を終わらせた。 四年間の研究期間の一年目であるが、以上のように調査はきわめて順調に進んでいる。(680字)
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