本年度は、方言調査としては中国福建省浦城県楓溪方言の調査を八月に行った。仙陽(この方言はびん北語ではなく呉語の一種)、臨江、観前、水北街、山下に続く六地点目の方言となる。「研究計画調書」には山下郷小溪方言の調査を行う旨記したが、この地点の調査を行うことが難しく、実現できなかった。そこで、小溪方言に地理的に近接した楓溪郷の方言に着目した。初歩的な調査の結果、この方言が崇安方言の一種であることが判明した。(*gの脱落、*y>auなどが起こっている。)臨江、観前、水北街、山下にはこのタイプの方言が含まれておらず、また崇安方言自体の調査データも目下非常に乏しい。そこで楓溪方言の調査を行ったのである。これまでの五地点と同一内容の調査を行った。本研究で予定していた方言調査はすべて終了した。 その他の時間は調査報告書『浦城県境内びん北区方言研究』(中国語で執筆)の執筆を行った。その際、陳澤平福建師範大学教授、劉沢民上海師範大学教授、曹志耘北京語言大学教授ら中国人研究者とのディスカッションを積極的に行い、その成果を取り入れるように努力した。音韻、語彙(600語)、例文(100文)の入力は終了した。その一方で、語彙特徴、文法特徴部分が未完成であることを遺憾とする。 音韻史的に見て、もっとも興味深い変化を遂げているのは臨江方言である。この方言では無声閉鎖音・破擦音がいったん有声閉鎖音・破擦音に変化し、その後再び無声化を起こしたことが明らかになった。例えば「白」は*pa>ba>phaと変化した。この変化については第十三回びん方言国際学術研討会で発表した。
|