本研究は、信託および信託類似制度に関する法制の比較法研究を通じ、各国の私法に関する基本的な枠組みの理解と英米法のtrustに関する対応から見た法意識調査を展望したものである。また、欧州の周辺・辺境部分や各オフショア法域の法制・法意識を調査研究することで、様々な角度から「ヨーロッパ」の深層に根源的に迫ることを最終的な目的としている。本年度の具体的な成果は以下の通りである。 (1)欧州を中心とする大陸法域における信託の認識と導入に関する問題につき、英語による論文を刊行した。 (2)モントリオールでの世界信託法会議(Conference on "The World of the Trust"/La fiducie dans tous ses états)に、渡辺教授が、チェアマンの一人として参加した。 (3)本研究の纏まった成果として、比較信託法に関する本を刊行した(「特集・エクイティなき信託」季刊企業と法創造26号)。具体的内容は以下の通りである。(1)英国信託法の第一人者的存在であり、大陸法諸国やオフショア諸法域の信託制度に関して非常に造詣が深い、ロンドン大学キングスカレッジのPaul Matthews教授と筆者の会談記録「信託の本質と"property"概念の多義性」、(2)エジンバラ大学教授で、スコットランド・英国における財産法・封建法の第一人者的存在であり、欧州における統一信託法への動きのキーマンの一人であるKenneth Reid教授と筆者との会談記録「欧州信託法基本原理と"Protective Fund"に関する欧州指令案」、さらには、(3)「同指令案の翻訳と解説、および原文」を掲載した。
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