本研究では、英米のtrustとは異なる沿革を有しながら独自の変容や発展を遂げている地域の信託(or信託類似制度)に関する法制について、歴史的背景や実際の運用にも踏み込んで調査を行う。文献調査・実地調査の結果をふまえ、対象地域の信託法を日本語に翻訳してこれを公表し、併せてそれらの信託法制の特徴を抽出する過程で、信託法理の変容がいかなる形でいかなる程度まで行われているかを調査して「信託の限界点」を示し、「信託とは何か」という本質的な問題に関する理論的枠組みの構築を目的としている。本研究課題は、これまでの諸調査研究の成果をふまえつつ、「大陸法をベースとする私法の下での信託の受容と発展」といった理論的課題の検討に重点を置くものである。 商事目的を中心とした様々な形式の信託の発展に伴い、信託法理も変容を遂げてきたが、信託を承認し信託の限界を画するための理論のさらなる発展が待望されている。そして、オフショア地域を中心とした、最近の新たな信託スキームの出現により、そうした信託の承認と限界に関する理論の発展が必須のものとなってきている。本研究は、そのような理論の発展に貢献することが見込めるものである。一方、近時、欧州において、商事目的の統一信託法の制定へ向けた動きがあり、そこでは、オフショア諸法域で行われる信託もカバーすることが企図されている。こうした動向とその背後に存在する信託法理論を分析考察することにより、オフショア諸法域の信託の特異性のみならず、欧州における信託および信託類似諸制度との共通点や、欧州における法制の変容の先鞭となりうる諸点についても光を当てる、これまでのわが国にほとんど存在しなかった角度からの信託法研究を展開する。
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