今年度は調査期間の最終年であったために、研究の総括を行った。具体的にはロシア正教会の幹部司祭たちにたいして正教会とロシア国家の将来の像についてインタビューを実施した。プーチンは正教会を利用して愛国主愚を育成し、その愛国主義に支えられる正教国家の樹立を目論んでいることがわかった。司祭たちの話から明白になったのは、正教会にしてもプーチンに妥協するのとひきかえに、ロシア政府からの経済支援を引きだそうとしていることである。とくに1917年ロシア社会主義革命で剥奪された正教会財産(現在は国有財産となっている)の返還を求めており、プーチンを利用して正教会の経済活動を活性化することをねらっている。 今年度の調査では、ロシア国内の政治学者と面談し、正教会がプーチン政治にどのような影響力をあたえているかについて議論を交わした。政治学者の多くは欧米諸国のような民主国家、具体的には政教分離の重要性を認識しているが、こんにちのロシア政治の趨勢に懸念を抱いていることがわかった。ロシア憲法では政教分離をもりこんでいるが、実際にはプーチン個人と正教会の癒着については法律的に議論することの困難さを指摘していた。 いずれにしても、これらの調査をとおして浮き彫りになった正教会とロシア政治の関係についての成果の一部を、単著『ろくでなしのロシア―プーチンとロシア正教』講談社、2013年、254頁にまとめた。 本書のように正教会の実態に踏みこんだ実証研究は欧米諸国、日本、さらにはロシア国内を含めてはじめての研究成果といえる。
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