本研究では、開発途上国の地方政府による環境ガバナンスに関し、以下の2点を明らかにしようとした。第1に、環境政策の中で、もっぱら自らの環境破壊的な活動を規制すべき存在として捉えられてきた企業が、より積極的に環境政策に貢献するための条件を明らかにすること。第2に、地方分権の進展とともに環境政策の主体として位置づけられるようになった地方政府が、住民や民間セクターの参加によって効果的に環境政策を推進するための要素を探ることである。そのために、事例として、フィリピンのパターン州およびカビテ州で実施されている総合沿岸管理事業を取り上げた。 第1点については、以下のことが明らかになった。すなわち、(1)企業が地域社会に取り込まれており、さらに、社会に責任を持つべきという規範を内面化している場合は環境政策により積極的に貢献するようになる一方、(2)法制度によって環境や社会への配慮から比較的自由に振舞うことが許されている場合は、環境政策への参加が低調になることである。第2点については、(1)住民参加の法的・制度的基盤の存在を前提として、(2)住民が効果的に政策過程に参加するためには彼らが組織化されかつエンパワーメントされている必要があること、そして、(3)住民の組織化やエンパワーメントだけでなく、地方政府とのネットワーキングが外部組織(NGOや民間企業の組織)の支援によって行われる必要があること、(4)特にその外部組織が非公式な人的ネットワークを地方政府との間で形成している場合は、彼らによる住民組織化と地方政府とのネットワーキング支援がより効果的になること、さらに(5)政策分野での十分な専門的能力と実績を持つ地方政府の官僚組織が、住民やNGO等との関係形成に積極的であることが、参加型環境政策の効果的実施にとって重要なことが明らかになった。
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