研究課題
「東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)」のもとで実施されているフィリピンの沿岸環境管理事業を事例として、地方分権下における環境ガバナンスの質に影響する要素を確認することを目的に、バターン、カビテ両州の州政府と町自治体に加えて中央政府の地方事務所おいて資料収集と聞き取り調査を実施するとともに、調査対象自治体におけるガバナンスのあり方をフィリピン全体の中に位置づけるため、本研究代表者が科学研究費補助金「東南アジアにおける地方自治サーヴェイ」(研究代表者:永井史男)によって実施した、フィリピン全国の自治体ガバナンスに関する量的調査の結果を援用した。その結果、以下の点が明らかになった。第一に、1991年地方政府法によって権限と財源の委譲を受け、かつ参加型行政の推進を求められるようになった地方自治体の統治スタイルとして台頭してきているのは、首長の政治的リーダーシップを強調し効率を重視する統治スタイルと、住民参加を重視する統治スタイルの2類型である。そして、これらの2類型のうちより多くの首長が志向しているのは効率重視の統治である。本研究の調査対象となったバターン、カビテ両州内の自治体においても、上記2類型の統治スタイルが顕著に観察され、効率重視の自治体がより多くみられる点で、フィリピン全体の傾向と一致した。第二に、上記2類型のうち、環境ガバナンスのパフォーマンスがよりよいのはどちらかという点について、量的調査の結果をもとに統計的分析を試みたところ、有意な差が得られなかった。本研究の調査対象となった自治体においても同様の結果となっている。この結果は、住民参加が環境事業の成否に影響するというこれまでの通説とは対立的にみえるが、住民参加の内実をより詳細に検討する必要がある。
3: やや遅れている
インタビューを含む現地調査を実施する予定であったバタンガス州について、同州知事が沿岸管理事業を優先政策としておらず、また、2013年5月実施の選挙に向けた動きが重なり、同州政府への現地調査が遅れている。また、校務の関係で2012年7月に韓国で開催されたEast Asian Seas CongressおよびPEMSEA Network of Local Governments for Sustainable Coastal Developmentに参加することができなかった。他方で、本研究では予定していなかったが、調査対象自治体におけるガバナンスのあり方をフィリピン全体の中に位置づけるための、フィリピン全国を対象とした量的調査の実施と分析作業を新たに進めることができた。
バターン州およびカビテ州での調査の結果を取りまとめるとともに、バタンガス州については、選挙によって新たな政権が確定して政権運営をスタートさせた時期(2013年8月以降)をめどとして、実質的な調査に入る予定である。その際には、州政府官僚制の技術的・行政的能力の見極め、地域住民やNGO、企業を巻き込んだガバナンスのためのネットワークのあり方の分析に特に注力する。さらに、今年日本で開催されるEast Asian Seas CongressおよびPEMSEA Network of Local Governments for Sustainable Coastal Developmentに参加し、PEMSEA参加自治体の事業への取り組みを広く観察したい。その上で、フィリピン地方自治体の一般的傾向の中に、本研究課題が対象とする自治体のガバナンスのあり方を位置付けたい。
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Proceedings of "International Symposium on Local Government Survey in Southeast Asia : Comparison among Thailand, the Philippines and Indonesia" (January 12 and 13, 2013, Meiji University).
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