フィリピンの沿岸自治体における沿岸環境管理に関するガバナンスの実態を明らかにすることを目的に、州、州内自治体、自治体内に立地し沿岸環境に影響を与える民間企業および漁民組織を中心とする各種住民団体やNGOといったアクターが、いかなる利害関心のもとにどのような活動を行い、どのような協力関係・対立関係に入っているのかを調査した。調査対象は、バタンガス州、バターン州、カビテ州、ギマラス州の4州である。このうち、ギマラス州を除く3州では現地調査によってデータ収集を行った。一方、ギマラス州については報告書を入手した。 調査対象の事業は、開始後10年以上が経過しているため、各アクターの活動状況やアクター間の関係には時間の経過に応じた変化が見られた。特に、この間に3回の地方選挙を経てきた自治体首長については、当落に応じてアクターの変更が生じたため、非政府アクターとの関係において大きな変化が見られるケースもあった。他方、州政府や州内自治体の官僚制は、一部幹部職員のレベルでは首長の交代に伴う人事変化があるものの、継続性が強いため、非政府アクターとの関係において大きな変化が見られなかった。しかし、非政府アクターの中には期間を限定して事業に参加する団体もあり、継続的な関与が必ずしも担保されない事例も見られた。 また、地方分権化後のフィリピンでは自治体のガバナンスのスタイルとして首長のリーダーシップを重視するものと住民参加を重視するものが台頭しているが、沿岸環境管理は住民参加を重視する事業であることから、沿岸自治体が相対的に多く沿岸管理事業を通じて住民の行政参加が進んでいると見られるビサヤ地方において、住民参加重視の自治体のパフォーマンスが社会政策分野で特に高いことも明らかになった。 研究成果の一部は、紀要論文の形で公表したほか、国際会議でも報告した。
|