本研究では、1986年税制改革法以降のアメリカ連邦所得税の課税ベースが浸食しているという現実に着目し、その要因について、政策決定過程と個別政策との二重の意味での歳出入一体化という視角から分析を行い、以下の知見を得た。第1に、税制の政策決定過程において、1974年議会予算法によってマクロ予算編成上の財政規律を担保するものとして制度化されたリコンシリェーションが、1980年代以降の税制改革立法の主要な手段として駆使されることにより、課税ベースの取り扱いが財政再建を遂行する上での政治的取引の対象とされることで、課税ベースの浸食が漸次的に進行している実態が明らかとなった。第2に、個別政策分野においては、課税ベース浸食の量的規模においては、雇用主提供の年金、医療保険に対する所得控除が大きなシェアを占める一方で、勤労者税額控除、児童税額控除に代表される所得再分配を主たる目的とした税額控除の拡大と、住宅モーゲイジに対する所得控除や金融資産所得に対する優遇課税などの投資優遇を目的とした税制改革が、今後対策を講じるべき政策分野として焦点となっている実態が明らかとなった。
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