これまでのフィールドワークによって得られた知見およびシンポジウム等による研究成果の開陳・交流を通して、グローバル化の進展とともにアジア・メガシティとして成長著しいデンパサールおよびジャカルタを事例として、多層化し分極化するヒトの移動と複雑化する地域社会の位相を明らかにした。とりわけ日本人社会と地元コミュニティが交差するところで、さまざまなリスクに向き合いながらセーフティネットの構築にいそしむ人びとの生活世界の色鮮やかな断面を浮き彫りにした。同時に、グローバル化に対する地元社会のリアクションが、アジェグ・バリ(バリ復興運動)のような内向的なローカリティの主張として立ちあらわれ、そのことが日本人社会を含むバリ・コミュニティに対立と不和をもたらしていることを明らかにした。まさに急速にハイブリッド化する社会の汎世界的な局面が析出されるに至った。 なお、本研究によって移民に関する新たな知見も得られた。移民は、これまでどちらかというと、ナショナリティ(国歌/国家的なもの)に回収されていくもの、そしてそこに強制的契機をみるという捉え方がなされてきた。しかし本研究によって、移民、とりわけ「ライフスタイル」移民といわれるものが、ナショナルな機制に必ずしも制約されないこと(それは、モビリティが個人の意思によるボーダレスなフローに基づいていることから派生している)、同時にポストコロニアルの地層に深く足を下していることが明らかにされた。
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