研究課題/領域番号 |
22402038
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
丹野 清人 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (90347253)
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研究分担者 |
関 礼子 立教大学, 社会学部, 教授 (80301018)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国籍の境界 / 越境システム / 越境する雇用システム / 日系旅行社 / デカセギ旅行社 / 比較制度分析 / 進化制度論 |
研究概要 |
今年度は、日系人労働者が日本に入ってくるようになった法的ロジックの再検討を中心に行い、1990年の出入国管理及び難民認定法の改正がその後の労働市場の形成にどのような影響を持ったのか、それと同時に日系人に定住者の在留カテゴリーを与えることで何が予定されていて、何が予定されていない意図せざる結果であったのかを明らかにした。とりわけ、1990年の入管法改正の際に、ブラジル側で日本の外務省やブラジル大使館・領事館にブラジル側から見た問題を提起し続けた人々にインタビューし、入管法改正に対するブラジルサイドの当初の意図がどの程度反映できたものであるのかを聞き取り調査した。 また、1990年入管法改正の時にブラジル側が要望を伝え、現在は退官していた外務官僚にもインタビューをし、ブラジル側から伝えられた意図を大使館員としてどのように受け取ったのか、そして日本の本省にどのように伝えたのかを聞き取り調査した。元官僚だけあって、正確な情報を得ることは難しかったが、ブラジルサイドからのインプットがあったこと、そしてそこに日系人のブラジルの上院議員、下院議員が多数影響力を行使しようとしていたことが確認できた。 今年度の研究成果は、2013年3月に出版した『国籍の境界を考える--日本人、日系人、在日外国人を隔てる法と社会の壁』の一部でも取り上げ、既に今年度中に成果についても公表し始めている。今年度の研究成果は、来年度の夏頃に既に採択されている研究成果公開促進費を使った英文出版でも盛り込まれており、次年度以降に確実に研究成果が公表されて行く道筋についても現時点で確定されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
リーマンショック以後、日本とブラジルの経済状況が一変することで、かつては日本が景気のいい社会でブラジルが不景気に喘ぐ社会という構造は完全に崩れた。このような大きな経済的枠組みが変化するなかで、日本にデカセギという形で労働力を供給するシステムとなってきたブラジルの日系旅行社=デカセギ旅行社は大きな転機を迎えている。これまでに日本に労働力を送り出すという仕組みが、日本側の急速な景気後退の影響で送り出し先を失うばかりか、送った労働者の航空券代も送られてこなくなっており、現地のリクルーティングシステムはほぼ崩壊していた。 にもかかわらず、リベルダージを中心とする日系旅行社の集積地から、日系旅行社のプレゼンスが減ったということは見られなかった。日系旅行社は、日本に労働力を送り出すという機能を継続する代わりに、日本からブラジルに進出して企業が現地法人を作りブラジルでの工場を建てて行く際に、現地法人に勤務するスタッフを紹介するビジネスに転業していたり、日本から進出した企業が増えることによって増加した駐在員家庭向けのサービス業を展開するビジネスを新たに開業することによって、旅行業を継続していたのである。 本研究を通して、これまで見ることのできなかったブラジルでの日系企業の資本蓄積が日本からブラジル人労働力を引き戻すという現象を見ることができた。リーマンショック後、さまざまな出身国から来た日系人のなかではブラジルだけが日本滞在者数を大きく減らしている。ラテンアメリカ諸国のなかでも同じ日系人労働者の送出国であるペルー、アルゼンチン、ボリビア、パラグアイと比較しても、三人に一人以上の割合で帰国してしまったのばブラジル人だけであり、なぜブラジル人だけがこの間に減少したのかをうまく説明する説明枠組みはこれまで必ずしも提示されていなかった。今年度までの研究を通してこの部分に新しい解釈を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
研究の方向性は間違っていないと確信している。そのため、大きな研究の方向性の転換、および研究対象の変更は全く考えていない。これまでの延長を確実に進めて行くことが今後の研究の推進方策の基本となる。 ただし、現時点で抜けている点があることもまた確かであり、今年度はその抜けている点として、ブラジルに進出した日本企業が日本でデカセギ就労の経験のある者を本当に雇用しているのか、雇用しているとしたらどのような職種に迎えているのかといったことを中心に調査活動を行い、最終年度の研究を終えたいと考えている。
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