日本とブラジルの間の労働者の移動とそれを媒介する制度の変化を時系列的に明らかにした。労働者の移動に伴って、ブラジル側のコミュニティ、日本側のコミュニティの双方に変化が生じていることを明らかにした。特に、2008年に発生したリーマンショック以後の世界同時不況は、これまでの移民研究で行われてきた説明ではできない状況を発生させている。移住者が出身国にきわめて短期間の間に帰国するという現象が、この説明できない現象なのであるが、本研究を通してこれまで説明できなかった移民の移動パターンとコミュニティの盛衰の関係を明らかにすることができた。 日本がリーマンショックからようやく立ち直り始めた頃に、東日本大震災が起きて東日本を中心に日本の製造業はしばらく麻痺状態に陥った。そのため、日本での外国人労働者に対する雇用はなかなか戻って来なかった。その一方で、ブラジルは2014年のサッカーのワールドカップ、2016年のオリンピックといった大きな大会の開催を控えて、国内では建設投資を中心に資本投下が続いていたこともあって、先進国が景気低迷期にあっても着実な経済成長を見せていた。こうした経済環境は個人消費にも影響を与えており、日本の自動車メーカーでブラジルでも生産活動をしているトヨタ、日産、ホンダはいずれも生産量を2008年比で倍増していた。その結果、自動車を中心に雇用が日本からブラジルにシフトしたような状況が発生しており、デカセギ経験者もこの波の上で移動していたということを明らかにした。
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