1948年イスラエル建国以後66年間にわたり実質的に「占領」下にあるパレスチナ自治政府とイスラエル国家が共有する複雑な地政学的環境を、主に環境問題、食料水資源、農地土地問題の観点を強調したシミュレーション・ゲームに再現し、国際政治、非政府組織、市民間の対話を通じて地域内格差問題に対処するゲーミングを用いたワークショップを設計した。とりわけ現実社会では実現の難しい対話ツールを多様に埋め込むことで、参加者がこれへの参加を通して地域内問題に対してより包括的な議論を行うアクション・リサーチによって、「対話」を通した共同体の将来像についての議論を深めることが最終的な目的である。 今年度の研究費によってイスラエル国およびパレスチナ自治政府地域の両地域において大学および地域NGO団体の協力を得、このシミュレーション・ゲーミングの実施を行った。これにより参加者のフィードバックを元に今後の地域間相互の対話のプラットフォーム構築を展望分析した。 上記のアクション・リサーチと平行し、現状に対するポストコロニアルの視点を導入して原住民と入植移民の対話を通した和解と共生への道程を模索するために、エドワード・W・サイードらに代表される「一国家二国民案」を支持する人々を対象に、「共生」観に焦点を当てた聞き取り調査を行った。 「社会の変革」は多くの要素が絡み合い実現されるものという点から「複雑系科学」の一つとして分析され得るため、ここまでの研究成果としてジェニン国連難民キャンプにおいて実践された「芸術を通した社会教育」の記録を元に、紛争から共生に向かうにあたって、社会アイデンティティーの変化に関する分析を複雑系科学研究委員会にて学会発表した。現代社会が抱える様々な構造的困難を変革・転換する複雑系科学の点から、多様な領域の関心から実りある議論を得ることができた。
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