研究課題/領域番号 |
22402049
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
柴山 真琴 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (40350566)
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研究分担者 |
高橋 登 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00188038)
池上 摩希子 早稲田大学, 日本語教育研究科, 教授 (80409721)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 教育系心理学 / 二言語形成 / バイリテラシー / 日系国際児 / 質的研究 / 日誌法 / 言語検査 / フィールドワーク |
研究概要 |
本研究は、二言語の会話力と読み書き力が大きく変化する幼児期から児童期の二言語形成過程を継続的・多層的に捉え、これまでブラックボックスのままであった二言語(バイリテラシー)形成の実践過程を、ドイツ居住の独日国際児の事例に基づいて具体的に解明することを目的としている。平成24年度は、研究計画に基づいて、以下の3つの調査を実施した。 [調査1] 対象家族の親による定期的観察を行い、対象児の二言語に関わる日常行動データを収集した。 [調査2] 2012年10月26日~同11月2日まで、ドイツ・A州で海外調査を行った。対象児が通う日本語補習授業校(補習校)で、授業参観・教師からの聞き取り・資料収集を行うと共に、対象児の両親へのインタビュー調査も実施した。また、国内調査として、在日ドイツ人学校でフィールド調査を行った。 [調査3] 日本語検査とドイツ語検査(いずれも読解課題・口頭産出課題・作文課題)を行い、対象児の二言語の発達状態の3年次測定を行った。 上記調査データについては、年度末に中間分析と研究討議を行った。本年度は、前年度までのデータ収集と分析を踏まえて、学会発表と学術論文の刊行を通して研究成果を公開した。学会発表(異文化間教育学会第33回大会「ケース/パネル発表」)では、[調査3]で得た二言語検査データのうち口頭産出課題データを取り上げ、対象児の談話に教科学習言語能力が現出してくる過程を縦断的・横断的に分析した。また、学術論文(『異文化間教育』36号と『質的心理学研究』12号に掲載)では、[調査1]と[調査2]で得たデータに基づいて、1)現地校と補習校に新入学した独日国際児が両校の宿題を遂行する過程、2)小学校中学年の独日国際児がドイツ語と日本語で読書をするようになる過程、を質的に解明した。いずれも具体的な実践過程を開示した点で、バイリンガル研究に新たな知見を加えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに実施した3種類の調査によって収集したデータの分析から、対象児の現地校・補習校の宿題遂行過程と二言語での読書過程について得られた主要な知見は、次の2つである。 (1)ドイツ語力の高い日本語母語話者の日本人母親が現地校・補習校宿題の主要な支援者(ドイツ語母語話者の父親は補助的支援者)であり、親は子どもの関心・二言語力・心理状態を踏まえて、宿題への定期的・継続的な参加を誘導していた。誘導の過程には、「なぜ自分は日本語を学ぶのか」という継承語学習の意味づけをめぐる母子間の葛藤の調整も含まれていた。 (2)国際児の二言語での読書活動は、親が読書の楽しさの体験を仕組む序列的な伝達関係に後押しされて開始され、本を含む多様なメディアを通じた楽しさの体験を子ども自身が拡張していく自己社会化へと進んでいた。ただし、現地語かつ学校言語であるドイツ語の読書は家庭外の関係にも広がっていくのに対して、社会の少数言語である日本語の読書では、親の工夫や努力に規定されがちであるという違いも見られた。 これらの知見は、1)二言語での読み書き力(バイリテラシー)の形成は、子ども単独の認知的活動というよりも親子間での協働的活動によって支えられていること、2)家庭学習では、二言語での宿題遂行と読書活動(特に社会の少数言語かつ弱い言語である日本語を使った活動への支援)が児童期の独日国際児のバイリテラシー形成を支える中核的な活動であることを示唆するものである。その一方で、バイリテラシー形成を見る上で重要な領域である作文力については、現地校と補習校の宿題の分析では十分に検討しきれないことから、本年度は作文力の測定材料として「作文課題」を新規に作成し、二言語で同一の作文課題(物語課題・説明課題)を実施した。作文課題のデータ分析が次年度に残されたことから、現在までの達成度を上記のように自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である来年度は、これまでの3年間で収集したデータの更なる分析を進め、作文課題で得たデータの分析を中心に研究成果の発表を進めていく。本研究課題で解明しつつある独日国際児のバイリテラシー形成過程は、国際児の教育に手探りで取り組んできた補習校講師や国際家族の親にとって、極めて有益な研究情報になり得ると思われる。その点を鑑みて、最終年度の研究成果の公開企画として、ドイツにおいて保護者向けの講演会と講師向けの研修会を開催して、現場への研究成果の還元を行なう予定である。 本研究課題では、フィールドとした補習校で最も多い家族のタイプ(父親がドイツ人で母親が日本人)で、かつ子どもの二言語形成に有利な条件を備えた家族(①母親の現地語力(ドイツ語力)が高く、②母子間では原則として日本語を使用し、③実際に親子で定期的に読み書き活動に従事している家族)を対象家族として、独日国際児のバイリテラシー形成過程を検討してきた。しかし実際には、独日国際家族と言っても、両親の非母語力や家族間での言語使用パターンはかなり多様である。父親の日本語力が低く母親のドイツ語力が高い場合、夫婦間・父子間でのドイツ語使用は同じでも、母子間での日本語使用を徹底する家族もあればドイツ語を混用する家族もある。また、両親共に非母語力が低い場合、夫婦間では共通に利用可能な言語(英語など)、父子間ではドイツ語、母子間では日本語を使用する家族もいる。このように家族の条件が異なれば子どもの二言語形成過程を支える実践も多様であると考えられ、ドイツ居住の国際児のバイリテラシー形成過程を解明するためには、本課題の対象家族とは異なる条件を持つ家族にも対象を広げて、より詳細に検討する必要性が出てきた。本課題を遂行することで浮上してきた新たな課題については、来年度、新規に研究申請を行なうことで、継続的に研究を進めていきたいと考えている。
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