本研究では、日本とアジア3ヵ国(韓国、シンガポール、インド)及びデンマークの乳幼児期のインクルーシブ教育を取り上げ、それらの実態を明らかにした上で、その背景にある理念・思想、制度・政策とその歴史的変遷、障害観・教育観などを明らかにしていく。そして、それらの知見を基に日本における、乳幼児期のインクルーシブ教育における乳幼児・保護者の相談・支援制度及び体制のモデルを新たに提案し、その実施のために解決すべき諸要因を考察することを目的としている。 平成22年度は、各国において研究協力者と共に予備現地調査を行った。8月29日~9月5日:デンマーク、1月25日~1月27日:韓国、2月5日~2月18日:シンガポール・インドに行き、各国で特別支援保育・教育を実践している幼稚園、療育センター、特別支援教育に関する学部・学科のある大学などを訪問し、現地視察、資料の収集、意見交換などを行うと共に、次年度に実施する現地本調査及び質問紙調査を行うためのフィールドの確認を行った。 また、フィールド予備調査・文献調査などを基に、障害観、発達観、障害観などを明らかにするための、質問紙の検討を行っている(継続中)。平成23年度に、現地本調査と共に、保護者・保育者などに質問紙調査を実施する。 なお、デンマークにおける予備フィールド調査の結果は論文にまとめた(齋藤、Toth:2011)。デンマークにおける乳幼児期の特殊教育では、その歴史的な経緯から、健常児と障害のある乳幼児をただ形式的に一緒にするような統合教育には否定的である。健常児/障害児といった区別はなく、全ての乳幼児にとって最適な教育を提供するという観点から実践を行っており、その結果として、ある乳幼児が分離型特殊教育を受けることもありうるというものである。つまり、デンマークにおけるインクルーシブ教育とは、全ての子どもを健常児/障害児といった観点から区別せず、個々の子どもに対して、その子に最適な教育を提供するという点で、全ての子どもが同等であると考えられていることにある。
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