研究概要 |
本研究は,台湾北東沿岸域などの沿岸性海底熱水活動(SWH)域において,生物基礎生産への影響検証の実験フィールドとして,SWHに伴う物質供給の実態把握と時空間的解析により,天然の「海洋酸性化」と「栄養塩・微量元素供給」が海洋環境に及ぼす影響の評価を目的とした。 平成24年度は,これまで観測した台湾亀山島東方沖の他に,比較海域として薩摩硫黄島・鹿児島湾若尊カルデラなどで,学術研究船「淡青丸」KT-12-12次航海に参加し観測を行った。具体的に,熱水噴出口周辺の水塊構造や海水の化学特性をモニタリングし,熱水の周囲海水への混合・拡散とその変動を把握した。また,国立台湾大学海洋研究所研究船「海研1号」の研究航海に参加し,海洋観測を行なった。以下は得られた結果である。 a) 薩摩硫黄島周辺海域:① CTD,pHセンサーの観測結果から,塩分が低下している水塊と各観測点においてpHの低下が確認され,この海域へ高温・低塩分かつ低pH海水の移流が判明した。薩摩硫黄島に温泉(硫酸酸性, 低塩分)が多数存在することから,海底においても性質が近い温泉水の湧出が示唆された。また,海水密度差より湧出水深を概算し,ADCPと海底地形データと合わせて湧出海域が推測できた。② 採取された海水試料中のアルカリ度を分析し,調査海域の二酸化炭素分圧,溶存無機炭素量を算出した。海底温泉による低pH水の周囲海水への混合・拡散とその変動を明らかにし,海底温泉起源水塊の影響は広範囲に及んでいる可能性が示唆された。 b) 台湾東沖における広域海洋観測:黒潮表層水,黒潮熱帯水,黒潮中層水の3つの水塊が確認でき,台湾亀山島沿岸海水の上流海域での基礎データと海水試料の入手ができた。さらに,平成23年度台湾亀山島沿岸海水の下流域の観測調査結果と比較し,SWHに伴う物質供給と周辺環境への影響について実態解明が進んだ。
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