研究課題
高速拡大海嶺系のオフリッジ火山群の産状はほとんど未知であり,定置過程や大量のマグマ発生,海嶺軸部と組成の異なるオフリッジマグマ生成プロセスの解明は,マントルダイナミクスの包括的理解に不可欠である。本研究の目的は,1)オフリッジ巨大溶岩流の産状・定置過程,2)オフリッジマグマの特徴と成因,3)マグマ溜りの分布と規模を明らかにすることである。3を達成するために地殻深部~モホの電気伝導度探査等の深部構造探査を計画していたが,航海日程を確保できなかった。そこで,23年度実績報告書に記した今後の研究方針に従い,計画通りに進まなかった場合の代替案として進めてきた深海掘削サイト1256の最上部を構成するオフリッジ巨大溶岩およびオマーンオフィオライトのオフリッジ巨大溶岩の岩石試料の解析を進め,その他の海底と陸上の地質体双方からオフリッジ巨大溶岩流の定置過程とマグマの成因について検討した。深海掘削サイト1256では,1500万年前に東太平洋海膨軸から~10 kmで噴火したオフリッジ巨大溶岩を掘削した。EPMA元素マッピングからNMORB及び EMORBマグマから晶出した輝石結晶が地殻下部で混合した後,噴火・定置した過程がわかっている。カンラン石斑晶の結晶数密度と粒径分布の解析により,溶岩流出後にカンラン石斑晶の沈降が起こり,その後岩体下部に高K溶岩が貫入し,岩体が内成的に成長したと判明した。オマーンオフィオライトの巨大溶岩流は地溝を埋めて一つの巨大な溶岩チューブを形成した。陸上溶岩とは異なり,ドレライト質の塊状コアが二階建て構造をつくる。コア中には溶岩ローブが融合した痕跡が細粒玄武岩レンズとして数10センチ~1 m間隔の層状構造を形成する。このことは,溶岩ローブが完全にひとつのチューブとして一体化してはいないことを示唆しており,陸上の巨大溶岩流よりも複雑な定置過程を示している。
2: おおむね順調に進展している
オマーンオフィオライトの巨大海底溶岩流の野外観察データと岩石試料の組織解析から,オフリッジ巨大溶岩流の産状・定置過程について,溶岩流全体の概要が明らかとなった。この成果は,その他の関連する成果共々,Umino (2012)など国内外の学術誌に公表された。また,笠谷らが中心となって,断層の発達した熱水系での詳細な比抵抗調査を目指し,受信機となる海底電位差計の製作と信号源となる電気探査装置の送受信ケーブル配置の検討を行った。信号源となる電気探査装置をJAMSTECのROVに搭載し,断層系および熱水域での試験観測を実施し,熱水に関連する兆候を検出することに成功した。以上より,今年度の目的は概ね達せられたと評価できる。
深海掘削孔とオマーンオフィオライト巨大溶岩流のフィールドデータと試料の観察から,現在の海洋底の溶岩流観察では得られない内部構造についての情報が得られたことにより,オフリッジ巨大溶岩流の産状・定置過程について,具体的な描像が得られつつある。最終年度へ向けて,岩石試料の解析からオフリッジマグマの特徴を明らかにし,成因について検討する。また,これまでに得られた海洋底のオフリッジ溶岩の地形デジタルデータと岩石試料についての化学組成データを再検討し,陸上の地質体の解析から得られた知見を総合して,オフリッジ巨大溶岩流の定置過程とマグマ生成を考察する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)
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