研究概要 |
本年度は,フランス南東部プロバンス地方のDigne, Le Coulet, Marseilleの各セクションにおいて野外調査を実施し,柱状図の作成と試料の採集を行った.このうち,Digneセクションから採集した黒色頁岩(0AE1b層準)およびその上下の泥灰岩の層準を含めた約4mの区間の試料(1cm間隔で採集)をテトラフェニルホウ酸ナトリウムと過酸化水素水を用いて溶解させた後,ふるいで洗浄し,その残渣から浮遊性有孔虫,底生有孔虫化石の抽出を行い,種の同定を行った.その結果,浮遊性有孔虫化石は,ほとんどが富栄養環境に適応したHedbergella属から構成されることが明らかになった.一方,採取したサンプルに対して研磨切片を作成し,葉理構造や生物擾乱の発達程度の観察を行うとともに,採取した黒色頁岩および泥灰岩の各試料の全有機炭素含有量,粒子組成,全岩化学組成を測定した.その結果,黒色頁岩の有機炭素量の高い時期には,葉理構造が発達しており,浮遊性有孔虫化石,石英・植物化石片などの陸源砕屑物,アンモナイト化石の含有量が増加するが,底生有孔虫化石や生物擾乱はほとんどみられなくなる.一方,有機炭素量の低い時期には,生物擾乱が発達し,底生有孔虫が産出するようになるが,陸源砕屑物や浮遊性有孔虫化石の量は減少することが明らかとなった.これらの結果から,無酸素水塊の発達には,陸からの栄養塩の流入量の増加が重要な役割を果たしていたことが考えられる.
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