多細胞動物群の台頭期であるエディアカラ紀から多細胞動物群の爆発的進化期であるカンブリア紀初期に渡る海洋溶存酸素環境をバイオマーカーのプリスタン/ファイタン比により、storm wave base より浅い水深と深い水深に分けて求めた。それらの層位分布から海洋溶存酸素レベルをI~IVの4段階表示した(Iは両方の水深で無酸素卓越、IIは両方の水深が有酸素と無酸素を繰り返す、IIIは浅い方が有酸素、IVは両方の水深で有酸素)。レベルIIはマリノアン全球凍結後からエディアカラ動物群生息期の前期と絶滅期、レベルIIIはエディアカラ動物群の生息期の後期(大型化期)、レベルIVはカンブリア動物群の出現期に相当することを見出した。 堆積有機分子の分析結果から、マリノアン全球凍結~全球凍結後の北西部キンバレー地域において、海洋では貧酸素環境が繰り返し発達していたことが分かった。この地域では葉緑体に由来するプリスタン・ファイタン、緑色硫黄細菌等に由来するアリルイソプレノイド以外のバイオマーカーはほとんど検出されなかった。一方中央部アマデウス・オフィサー堆積盆の堆積有機分子を分析した結果、全球凍結後この地域の海洋には酸素が安定的に供給されていたことが分かった。バイオマーカーとしては前述のプリスタン・ファイタンに加え、原生生物の膜脂質に由来するホパンや真核生物の膜脂質に由来するステランが検出された。以上の結果から、この時代オーストラリア北西部と中央部では酸素の供給量といった海洋化学環境が異なり、それが全球凍結後のバイオマス回復に影響を与えている可能性が考慮される。中央部の方が生物回復(あるいは進化発展)に適している環境であるというのは、後マリノアン氷期層において、北西部より中央部で多くアクリタークなどの微化石・あるいはエディアカラ生物群のような大型化石が発見されていることにも裏づけられる。
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