研究課題/領域番号 |
22404006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐竹 真幸 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90261495)
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キーワード | 神経毒 / 渦鞭毛藻 / ポリエーテル化合物 / 細胞毒性 / NMR |
研究概要 |
アメリカ西海岸で採集された渦鞭毛藻Prorocentrum hoffmannianumを人工培養した。P. hoffmannianumの脂溶性画分には、発ガンプロモーション活性を有するオカダ酸が含まれていることを確認した。水溶性画分には、分子内に多数のヒドロキシ基と二重結合を有する新規ポリエンポリオール化合物プロロセントロールが含まれていることを見出した。栄養源添加海水培地を用いて、渦鞭毛藻の大量培養を行い、藻体を収穫した。藻体をメタノール抽出後、溶媒分画、各種カラムクロマトグラフィーを用いて、プロロセントロールの単離に成功した。天然有機化合物の構造決定に有効なNMRスペクトルの測定を容易にするために、分子内の安定同位体炭素(13C)を強化したプロロセントロールを別途調製した。各種2次元NMRスペクトルの解析により、プロロセントロールの平面構造を決定した。JBCA法とユニバーサルデータベースを用いて、連続したヒドロキシ基の相体立体配置の決定を行った。 メキシコ湾やフロリダ沖で赤潮を形成し、多くの魚類斃死を引き起こすことで有名な赤潮渦鞭毛藻Karenia brevisより単離した6環性環状ポリエーテル化合物ブレビシンの立体構造確認を行うために、化学合成を行った。3環性コア構造であるABC環部を鈴木ー宮浦クロスカップリング反応を用いた収束的方法で合成した。別途合成したEF環部を連結し、6環性コア構造の合成に成功した。二重結合を含む側鎖を鈴木ー宮浦クロスカップリング反応で導入し、最後にアルコールをアルデヒドに酸化して全合成を達成した。合成したブレビシンを用いて細胞毒性を明らかとしたところ、ブレビシンは、有名な神経毒ブレベトキシンのナトリウムチャネルへの結合を弱く阻害した。このことから、ブレビシンが、電位依存性ナトリムチャネルに結合し、神経毒性を発現する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度当初予定であった、アメリカ西海岸で採取された渦鞭毛藻Prorocentrum hoffannianumの研究室培養に成功し、Prorocentrum hoffannianumによる発ガンプロモーション活性を有するポリエーテル化合物オカダ酸の生産確認に成功した。また、水溶性画分に存在する新規なポリエンポリール化合物プロロセントロールを単離し、その一部立体配置を含めた化学構造を明らかとすることに成功した。また、プロロセントロールの生物活性を明らかとし、マウス腫瘍細胞に対する細胞毒性を見出した。 アメリカ南部フロリダ沖で赤潮を形成し、魚類被害のみならず、ヒトへの健康被害が報告されている渦鞭毛藻Karenia brevisから単離されたポリ環状エーテル化合物ブレビシンの全合成に成功し、その構造の妥当性を証明するとともに、電位依存性ナトリウムチャネルに対する結合能を明らかとした。国外の渦鞭毛藻が生産する神経毒成分の構造確認に成功し、ブレビシンが神経毒性を有する可能性を明らかとすることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
国外で問題となっている有毒渦鞭毛藻試料を入手する。赤潮の発生や海産食中毒の発生は突発的かつ散発的に発生することが多いため、事件発生後の現地訪問では、赤潮が収束して試料の入手が困難な場合がある。その様な事態の解決のため、海外共同研究先との情報交換を行い、重要試料の確保と大量培養を行う。得られた試料は、メタノールなどの有機溶媒で抽出を行う。検出方法の開発には、純粋な試料が重要であるので、各種カラムクロマトグラフィーを用いた有毒物質の精製を行う。精製の指標には、細胞毒性、魚毒性などを用いる。純粋にした有毒成分は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルに供して、構造解析を試みる。有毒成分の生物活性を明らかとし、有毒渦鞭毛藻によるヒトに対する健康被害や魚類大量斃死の発生防止に貢献する。
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