エジプトでは、平成23年1月末に民主化を求める大規模デモが発生し、調査研究を遂行することが困難となった。そのため、平成22年度末に予定していた現地調査は中断し、翌年度へ延期するため、予算の繰り越し措置を行った。 平成23年度に入り、現地の情勢は落ち着きを取り戻したものの、治安上の理由でカイロおよび隣接地域の発掘調査許可は下りなかった。そこで調査が可能な上エジプトのルクソール地域で、新王国時代の貴族墓の現地調査を行った。 対象とした遺構はルクソール西岸にアメンヘテプ3世時代に造営された大型岩窟墓で、約100年前にハワード・カーターによって第47号墓として登録がなされた遺構である。岩盤を矩形に掘り下げた前庭部から、地下空間である列柱室、奥室へ続く構成などごく短い報告がなされ、平面図などは提示されていない。更に周囲は土砂に埋もれ、第47号墓の正確な位置すら不明となってしまった。早大調査隊による4回の調査の結果、第47号墓の位置が再び特定され、岩盤の亀裂から内部空間の存在も確認された。 平成23年度は地下空間に堆積した土砂の除去作業を実施し、100年ぶりに地下内部に立ち入ることができた。観察の結果、列柱室には角柱が並び、隅の一部は仕上げが未完成であることが判明した。さらに奥室の壁面には夫婦の彫像が3か所で確認された。奥室内部を支える柱はパピルス柱と考えられ、部屋の規模や長軸の方向なども明らかとなった。カーターの報告を修正し、詳細な平面図を作成することができるなど、大きな成果を上げることができた。
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