研究課題/領域番号 |
22404020
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柏木 裕之 早稲田大学, 総合研究機構, 招聘研究員 (60277762)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 古代エジプト / 岩窟 / 掘削技術 / 復元 |
研究実績の概要 |
中東地域では、一般に「アラブの春」として知られる民主化運動が広がり、エジプトにおいても不安定な状況が続いている。平成25年度はその影響が強く残っており、治安上の問題などから予定していた現地調査のうち、アブシール南丘陵遺跡およびダハシュール北遺跡の発掘調査を実施することができなかった。そのためこれまでに調査したデータを整理し、問題点の洗い出しや分析を進めた。アブシール南丘陵遺跡については斜面裾野から発見された石積み遺構について検討し、隅部の収まりからエジプトで本格的な石造建造物が作られた第3王朝の初期に造営された可能性を提示した。ダハシュール北遺跡では生前に墓をどの程度まで用意していたのか、という点について検討した。未完成で放棄された遺構などをもとに類型を整理した結果、墓は被葬者が決まっていない段階で、棺を納める小部屋以外の部分が作られ、被葬者が決定した時点で棺を納める部屋や必要な諸室が用意されたと考えられた。 比較的治安の安定しているルクソール地域では現地調査を遂行することが可能であり、ナイル川西岸のコーカ地区において貴族墓の発掘調査を実施した。特に平成19年から進めている第47号墓の調査では、内部の構成が判明し、約100年前にハワード・カーターが報告した平面形状と柱の様式や本数などに誤りがあり訂正することができた。また類似した大型貴族墓との比較考察から、墓の造営にあたっては墓ごとに固定した職人集団がいたのではなく、職能ごとに組織された集団が複数の墓を掛け持ちで担当し、効率的に作業を進める体制が整っていたことが、大型の高官墓を複数作ることができた要因の一つと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
民主化運動に伴う混乱によりエジプトでは治安が悪化し、一部の遺跡では調査の許可が下りない状況にある。本研究で予定していた遺跡においても、アブ・シール南丘陵遺跡や軍事施設に隣接するダハシュール北遺跡では他の外国調査隊も含めて調査の許可が認められなかった。しかし、これまで重ねられたデータから基本的な考察を行うことは可能であり、致命的な研究の遅れが生じたとは考えていない。すでに得られた資料を整理し、分析作業にじっくり取り組むことで、さらに検討すべき課題や必要データの収集などが明確にもなっており、おおむね順調に推移していると判断してよい。 また、ルクソール西岸コーカ地区の貴族墓調査はこれまで通り進めることができ、計画していたデータも得ることができた。おおむね研究は予定通り達成されているといってよい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではギザ遺跡クフ王第2の太陽の船、アブ・シール南丘陵遺跡、ダハシュール北遺跡、ルクソール西岸貴族墓の4か所において調査研究を進める計画である。 クフ王第2の船の調査では、船坑や蓋石に残された線や文字を手掛かりに、岩盤の掘削から蓋石の設置、さらに船坑内部への木材収納までの一連の工程を丹念に描く予定である。隣接する第1の船にも類似した痕跡が認められており、それらを含めた包括的な検討が必要である。エジプト考古省と協力しながら第1の船の未公開資料の収集、分析を進める計画である。 アブ・シール南丘陵遺跡およびダハシュール北遺跡については、現地調査を再開するとともに、今年度の整理作業によって浮上した課題に取り組む計画である。 ルクソール西岸では、コーカ地区から再発見された第47号墓の復元考察を継続するとともに、王家の谷に作られたアメンヘテプ3世王墓および同時代王墓の調査研究を進める計画である。この遺跡では、公開、活用が新たな課題となっており、そのための基礎的な資料収集や情報交換を行う計画である。
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