1.オーストリアのインスブルックを拠点として、周辺の標高3000メートル付近の高山地帯を調査し、年間を通して0℃付近以下の低温に保たれた土壌を採取した。 2.南極海水から分離した低温適応細菌Shewanella livingstonensis Ac10を利用した低温生物工学プロセスの開発に寄与する基本技術として、本菌の分子育種法を開発した。相同組み換えによってゲノム上の遺伝子を削除したり、外来遺伝子をゲノム内に挿入する手法を確立した。 3.低温菌S. livingstonensis Ac10の低温環境での生育においては、高度不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)を含有するリン脂質が重要な役割を果たす。本菌を利用した様々な低温生物工学プロセスを開発するためには、外界との物質交換などを担う膜タンパク質の機能発現機構を理解することがきわめて重要であり、細胞膜において種々の膜タンパク質の構造形成や機能発現に関与すると推定されるEPA含有リン脂質の生合成機構や機能発現機構の解明は重要な意味をもつ。本研究ではEPA含有リン脂質の生合成機構を解析した。S. livingstonensis Ac10のゲノムには、EPA含有リン脂質の生合成への関与が推定される1-アシル-sn-グリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼ(PlsC)の遺伝子が5つ存在する(plsC1~plsC5)。これらの遺伝子破壊株のリン脂質組成を調べた結果、ΔplsC1において、EPA含有リン脂質の生産能が顕著に低下したことから、PlsC1がEPAをリン脂質に導入する役割を担っていると考えられた。plsCの条件致死変異株Escherichia coli JC201の生育不全が、plsC1の発現によって抑制されたことから、PlsC1はE. coli内でPlsC活性をもつことが示された。
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