研究課題/領域番号 |
22404021
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
|
研究分担者 |
川本 純 京都大学, 化学研究所, 助教 (90511238)
|
キーワード | 特殊環境微生物 / 低温菌 / メタル代謝 / 高度不飽和脂肪酸 / 国際研究者交流 / 国際情報交換 / ドイツ / オーストリア |
研究概要 |
0℃付近の低温環境で生育する Shewanella livingstonensis Ac10 が、低温の嫌気環境で種々の金属を還元することを見いだした。低温環境での環境汚染金属の除去や、有用金属の回収に有用と期待される。本菌が 39 種の cytochrome c をもつことが全ゲノム解析によって示され、それらの関与によって多様な金属の酸化還元能をもつことが推定された。嫌気条件下で三価鉄と三価コバルトを電子受容体として生育することを見いだし、それらのうち三価鉄(クエン酸鉄)の還元に関与するタンパク質をプロテオーム解析により網羅的に解析・同定した。クエン酸鉄存在下で培養した菌体から不溶性の膜(結合)タンパク質を調製し、二次元電気泳動に供した結果、三価鉄依存的に生産量が増加するタンパク質が 8 種同定された。 S. livingstonensis Ac10 は機能性脂質として知られるエイコサペンタエン酸 (EPA) の生産菌としても注目される。本菌の EPA 生合成に関与するタンパク質の特性解析を行い、EPA 生合成に関与する 5 つのタンパク質のうち Orf2 がホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ活性をもつことを示した。また、Orf5 に存在するアシルキャリヤータンパク質と相同性をもつ 5 つのドメインが、Orf2 によってホスホパンテテイニル化されることを見いだした。ホスホパンテテイニル化された Orf5 が EPA 合成反応における足場として機能することが推定された。 一方、本菌ゲノム上の特定遺伝子上流に強力なプロモーターを挿入することや、構造遺伝子にタグ配列を挿入する手法を開発し、本菌を新規低温生物工学プロセスを構築するための宿主細胞として開発するための基盤を構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S. livingstonensis Ac10 については、低温環境における金属代謝や有用脂肪酸生合成のメカニズム解明に関して大きな成果をあげることができ、また、本菌を新規低温生物工学プロセスを構築するための宿主細胞として開発する基盤技術を作ることができ、当初の計画以上の進展が見られた。一方、本菌を凌駕するような優れた低温増殖性と物質生産性を備えた新規微生物の分離には検討の余地も残されていることから、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
S. livingstonensis Ac10 を宿主とした物質生産系の更なる改良と、これまでに分離してきた低温菌を凌駕するような優れた低温増殖性と物質生産性を備えた新規微生物の更なる探索を重点的に行う方針である。
|