研究概要 |
全世界の熱帯・亜熱帯の海岸域に広がるマングローブ林は極めて多岐にわたる生態的機能を有するため、代替不可能な貴重な生態系として知られているが、近年、急速に失われつつある。しかし、保全と再生の科学的基盤情報である遺伝的多様性は、十分に把握されていない。そこで本研究では、複数のマングローブ林主要構成種の遺伝的多様性と地理的構造を、統一的な研究方法を用いて全球レベルで把握するために、広域サンプリングを実施することを目的とした。この研究が完成すれば、マングローブ林の保全・再生指針を、遺伝的多様性に基づいて策定できることが期待される。なお、研究計画全体と本年度の研究実施には、高山浩司博士(現・東京大学総合研究博物館)が共同研究者として全面的に参加した。 本年度実施した主な研究活動は以下の通り。 1.海外活動:スリランカ、メキシコ、ミクロネシア連邦、ニューカレドニア、オーストラリアで現地調査を実施した。それぞれの地域で、Rhizophora属、Bruguiera属、Xylocarpus属、Sonneratia属、Acrostichum属等のマングローブ植物の集団サンプリングを行い、総計千数百点のサンプルを採集した。それらのサンプルについて、千葉大およびシンガポール大でDNA抽出を行う等、実験準備を整えた。 2.マイクロサテライトマーカーの開発と遺伝的多様性解析:アジアのマングローブ林主要構成樹種であるAvicennia alba, Sonneratia alba, Rhizophora mucronataのマイクロサテライトマーカーを開発し、論文発表を行った。また、ホウガンヒルギについてもマーカーを開発した。 3.海洋における遺伝構造の把握:作成したマイクロサテライトマーカーと葉緑体マーカーを用いて複数種の解析を行った。オヒルギとホウガンヒルギの分布域全体における遺伝構造がほぼ把握できた。
|