研究課題/領域番号 |
22405009
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 真 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (80204494)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 食植性 / コケ植物 / 原始的被子植物 / コバネガ科 / シギアブ科 |
研究概要 |
南米ペルーのアマゾン源流部およびアンデス山地において、コケ植物と原始的被子植物、およびそれらの植食者の探索を行なった。ペルーの森林局(Director de Gestión Forestal y de Fauna Silvestre)から調査許可を取得し、2013年11月24~12月10日の期間、加藤真・川北 篤・サトウアキラ・今田弓女の合計4名で調査を行なった。 調査を行った場所は、アマゾン源流部Tarapoto周辺の熱帯雨林、エクアドル国境に近いThumbes周辺の雨緑樹林、アンデス山脈山麓のHuancabamaおよびLa Florida周辺の山地雲霧林である。Tarapoto周辺の熱帯雨林と、HuancabamaおよびLa Floridaの山地雲霧林では、沢沿いの林床に葉状苔類が多く見られた。それらの湿潤な森林環境では、ケゼニゴケ属、サイハイゴケ属、ゼニゴケ属、Monoclea属に潜葉虫の潜孔が見られ、それらの潜葉虫がハモグリバエ科とシギアブ科のものであることが明らかになった。また、蘚類を摂食するハムシ科の幼虫が発見された。 また、TarapotoとLa Floridaにおいて、コミカンソウ科の種子を食べるガの幼虫が見つかり、それらが絶対送粉共生のパートナーであるらしいことが示唆された。不稔の装飾花を持つオシロイバナ科植物の花が見られ、その送粉様式についての予備的な調査も行った。 さらに、台湾(2013年12月21~24日)とラオス(2014年3月20~30日)において、原始的陸上植物の食植性昆虫の探索も行った。苔類からコバネガ科やシギアブ科の昆虫が発見された。また、ラオスでは、コケ食のハバチ幼虫が得られた。 得られた食植性昆虫の標本の形態観察や系統解析を現在進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回のペルーでの調査によって、南米にもコケ食のシギアブ科昆虫が生息することが判明した。このシギアブ科昆虫は、日本産のものと属が同じであり、利用している寄主植物も属が同じであった。このことは、コケ食の起源が、パンゲア大陸のローラシア大陸とゴンドワナ大陸への分離(ジュラ紀中期)以前に遡ることと、寄主植物の利用がシギアブ科においては2億年近くも変化していないことを示唆している。これらの昆虫の分子系統解析と分岐時期の推定を現在進めている。 コケ食の原始的な鱗翅目昆虫であるコバネガ科は、これまでエクアドルとチリで採集されているが、ペルーでは発見することができなかった。アンデス山脈のペルーの雲霧林のどこかに生息している可能性は残されており、地域・環境・時期などを変えて、再度探索する必要がある。コケ食のシリブトガガンボもペルーで発見することはできなかったため、こちらもさらなる探索の必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2013年のペルーでの調査によって、コケ食のシギアブ科昆虫の生息は解明できたが、コバネガ科とシリブトガガンボ科は発見できなかった。そのため、今年度は、地域・環境・時期などを変えてペルーを再訪し、それらの発見をめざすつもりである。これまでに得られた、コケ食昆虫の系統解析や分岐時期の推定を行うことによって、食植性の起源に迫る予定である。ペルーからの留学生が本研究室に在籍していることと、ペルーでの調査許可を得る道筋ができたことで、ペルーでの調査は支障なく実施できると考えられる。 シギアブ科に加えて、コバネガ科、ハモグリバエ科、シリブトガガンボ科、ハバチ科についても解析を進めてゆく予定である。コバネガ科の試料は、日本、台湾、北米、ニューカレドニア、オーストラリアのものがあるが、未だに南米のものが得られていないので、ペルーでの調査に期待をしている。 ペルーで発見されたコミカンソウ科植物の絶対送粉共生についても、さらに詳細な調査を加える予定である。この系の解析は、食植性の多様化過程について重要な示唆を与えるからである。 ラオスで発見されたコケ食のハバチについても、さらなる調査を実施する予定である。これまで、コケ食のハバチは知られておらず、ハバチ科の食植性の進化に重要な示唆を与える可能性がある。
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