研究概要 |
昨年度はタンガニイカ湖にのべ5名の日本人研究者を8月-12月にかけて派遣し,同湖の共同繁殖魚を中心に,長期の野外調査を実施し,いくつもの成果をあげる事ができた.当初予測していたように,オブスキュルス(オブ)が血縁ヘルパーのいる共同繁殖であることがほぼ確実である事を新たに見いだした.オブについては,現在実施しているDNA父性判定の結果も血縁ヘルパーの存在を支持しており,2011年度も野外調査の継続を予定している.オブは砂を掘ることによって繁殖巣を作り出すが,この巣形成にヘルパーが強く貢献していた.また,ブッシェリーも共同繁殖の可能性が高いことが示唆された.昨年度の調査により,これまで知られている2系統を含め,Neolamprologus属のうち4系統で共同繁殖がおそらく独立に進化してきたらしい事がほぼ明らかになってきた.これは単系統の本属35種の中で,血縁ヘルパー共同繁殖が複数回独立に進化してきたとの我々の当初の予想に沿う結果であり,今後それらの進化の生態的要因について慎重に検討を重ねて行く.2011年度は,オブ,ブッシェリーの共同繁殖の行動観察を発展させる. また,協同的一妻多夫のトランスについても調査し,生息環境,特に巣の形状が雌の雄の操作に重要であることを示唆する新たな基礎データが得られた.この他,巻貝で繁殖し雄に繁殖多型のあるビッタータスで,雄間の戦術への対抗戦術にかんする新たな知見も得られた.これは,協同的一妻多夫の進化を考える上で参考になる現象である.また,種間で繰り返し同じ個体同士が出会う二種個体間で,なわばり境界を巡り鳥類で知られる「紳士協定」が生じている事も,明らかになってきた.これは同湖カワスズメの種間で「種間社会」が高度に発達する事を示しており,今後この視点での研究の意義を示唆する.また,国内外での学会発表も予定通り実施した.
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