研究概要 |
23年度は,タンガニイカ湖沿岸域において,協同繁殖するカワスズメ類について新たに2種(オブスキュルスとブッシェリー)の繁殖生態を調べるとともに,協同繁殖魚のマルチや,マリエリの潜水野外調査と野外実験を実施できた。 オブスキュルスは,これまで殆どその繁殖生態が不明であったが,今回の行動観察での資料,DNAを用いた血縁関係の資料,標本計測結果から,一夫多妻型の婚姻形態が基盤となっており,それぞれの繁殖雌に血縁個体の子供は分散遅延をおこし,ヘルパーとして巣穴の維持や侵入者にたいする縄張りの維持に貢献していることが明らかになった。また,大型の♂個体は繁殖せず出生縄張りに留まることが許されており,この結果から雌の方がはやく縄張りから分散し,一方♂は分散が遅くなることが明らかになった。魚類での分散の雌雄差が明らかになったのは魚類では始めての発見である。本種はこれまでの血縁ヘルパー型協同繁殖種とは別系統の種である可能が高く,カワスズメにおける協同繁殖の進化の検討が今後期待される。来年度も,さらに「詳細な調査を継続する。 一方,ブッシャリーは岩場で巣穴を作らず繁殖していた。本種もハレム型一夫多妻が基礎であり,そこに雌に一匹のヘルパーがいることが明らかになった。ただし,ヘルパーは常に1個体であること,捕獲できなかったことから,ヘルパーの性別や生殖性の発達度合い等は不明であり,今後の調査が待たれる。 この他,協同繁殖魚マルチの野外での配偶者選択実験,協同的一妻多夫魚のマリエリの予備調査も実施した。マリエリは個体群内の婚姻形態の多様性は脊椎動物でも最も多様性が高いことが起こりえ,今回実際にそのような個体群をチサンザ地点で見いだした。これらの調査は,婚姻形態をもたらす生態的,社会的要因の研究にとって,素晴らしい成果が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の調査により,オブスキュルス,ブッシェリーが新たに,世界で始めて協同繁殖魚類である事が明らかにできた。その結果,従来の2系統であった協同繁殖魚が4系統に増やすことができた。これにより,協同繁殖の社会進化の検討が可能になる。24年度にもあらたな系統での候補種での調査を行い,あわせて社会進化の検討を行って行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,血縁ヘルパー型協同繁殖種については,もう一種別系統での候補種での検証調査を行いたい。また,オブスキュルス,ブッシェリーについては,さらに継続調査を実施したい。これらの資料をもとに,血縁ヘルパー型協同繁殖魚の進化について,脊椎動物のモデルシステムとして検討して行きたい。一方,非血縁ヘルパー型協同繁殖である(=共同的一妻多夫)の魚についても,とくにマリエリについて多様な婚姻形態の生じる生態的要因の解明を目指す。最終的には,これら非血縁ヘルパー型協同繁殖,血縁ヘルパー型協同繁殖を鳥類やほ乳類との類似性,相違性を比較検討することにより,脊椎動物の協同繁殖の進化について検討してゆく。
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