本研究は、湿潤熱帯のマレーシア・サラワク州中央山地、季節熱帯のタイ北部山地および中国南部を中心に、ブナ科樹種を対象に1)既設の森林動態調査区を利用したブナ科樹種の再生過程の解明と人為攪乱後の再生様式の比較検討、および2)各地未調査山域のブナ科フロラの垂直分布の比較、東南アジア各地の主要植物標本庫におけるブナ科樹種フロラの地域間比較を実施した。 当該年度は、広範囲な標高域にブナ科樹木が分布する東南アジア地域の熱帯山地林の内、ボルネオ島のマレーシア・サラワク州中央山地に調査地を設置し、中域~広域の空間スケールで湿潤熱帯~季節熱帯各地の未調査山域でのブナ科フロラの垂直分布の比較調査を実施すると共に、各地の主要植物標本庫においてブナ科樹種フロラの同定調査を行なった。 研究期間で、これまでの研究実績の上に、さらに以下の部分に焦点を絞って現地調査を実施した。ブナ科樹種の垂直分布の比較調査は、情報がないか乏しい地域として同州内のランジャク・エンティマウ国立公園の山地林(標高1300m)で実施した。3)主要標本庫での広域のブナ科フロラ調査はマレーシア・サラワク州クチン森林研究センターで実施した。以上の現地調査を通じて、東南アジア熱帯山地のうちボルネオ島のマレーシア・サラワク州のブナ科種個体群の垂直分布の地理的変異の模式化、人為攪乱による樹種分布の違いをもたらす要因としての分類群内部での更新繁殖様式の種間差を明らかにすることによって、自然・人為攪乱に対するブナ科種個体群全体の脆弱性評価をおこなうための基盤情報の収集が実施できた。
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