研究課題
本研究の目的は、熱帯サンゴ礁起源の魚類が繁殖の同期に利用している環境要因の特定とその内的伝達機構を明らかにすることであった。平成23年度においては海外調査と国内予備実験を行った。得られた結果は以下の通りである。海外調査フィリッピンタバコ市周辺での調査を平成23年9月26日~10月1日にかけて行った。昨年度のタバコ市近辺の沿岸調査に基づき設定したLagonoy湾(13゜35'N,123゜45'E)のサンゴ礁域から実験対象種を定期的に採集して生殖腺体指数(Gonadosomatic index ; GSI)の変動を調べた。その結果、周年サンプリングが可能であったシモブリアイゴ(Siganns canaliculatus)のGSIは、3月から増加し、4月にピークが認められた。GSIは6月まで高い値を維持した後減少し、その後低い値で推移した。フォルマリン固定した生殖腺を組織学的に観察した結果、GSIが高い時期には卵黄形成期から成熟期に達する卵母細胞が卵巣内に認められた。これらの結果から、Lagonoy湾におけるシモブリアイゴの産卵期は3月~6月頃であることが判明した。また、産卵期以外にも卵黄形成を行っている個体が散見された。産卵期に毎週シモブリアイゴを採集して産卵の月周性を確認した結果、GSIのピークは新月付近に認められ、卵巣内は最終成熟期にある卵母細胞で満たされていた。Lagonoy湾内にあるサンミゲル島民への聞き取り調査の結果、ゴマアイゴ(S.guttatus)の幼魚の沿岸域への回遊が4月及び5月の新月付近で見られることが判明した。Lagonoy湾におけるアイゴ2種の産卵活動には月周性がみとめられた。国内実験海外調査と並行して、視床下部域及び脳下垂体で発現が予想される本研究関連の遺伝子群のクローニングを引き続き行い、アッセイ系を確立した。時計遺伝子のうち、視床下部域におけるCryptochrome(Cry)遺伝子の発現が産卵月相(上弦の月)付近で上昇していることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
調査地域の自然環境に左右されるため、調査時期の若干の変更等が生じた。しかし、現地研究協力者と連絡を密に取ることにより、調査手順の変更は最小限に抑えられているため、順調に進んでいる。
現地調査研究者との密接な連絡体制が不可欠であり、事前の調整にはインターネットを利用する。今後もこの方針は変更がない。調査対象国によってはインターネット環境整備が遅れていることがあるため、この場合には電話やファックスで大まかな連絡を取り合う工夫をする。
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PLoS ONE
巻: 6 ページ: e28643
DOI:10.1371/journal.pone.0028643
http://www.takemura-lab.jp/