研究課題
フィリピンイネ研究所において、これまでに収集、保存してきた品種・系統について、Line source sprinkler施設において耐旱性の評価を行い、圃場試験用の有望系統の探索を継続して行った。また、乾燥や降水のパターンが大きく異なるフィリピン国内の以下の地域で、フィリピンイネ研究所(Philrice)本場(ヌエバ エシハ州)ならびに、以下の支場における調査、試験を継続して実施した。1.パンガシナン州サンニコラス:天水田地帯。地形の起伏が大きい。乾季と雨季の降水量の差が明瞭(平均降水量 乾季53.2 mm、雨季2323.0 mm)。2.イサベラ州サンマテオ:天水田地帯。地形の起伏が大きい。乾季と雨季があるが、サンニコラスほど降水量の差はない(平均降水量 乾季644.3 mm、雨季1103.7 mm)。上記の圃場に加えて、ヌエバエシハ州のフィリピンイネ研究所内実験圃場において、それぞれが所有している品種・系統の耐旱性と根系の機能的役割を評価した。また、名古屋大学において、共通の材料を用いて、種々の異なる土壌水分条件に対する根系発育反応を評価した。その結果、天水田条件下の乾燥に対して、側根発育の促進によって根系表面積を増加させるにもかかわらず、地上部乾物重を著しく減少させる品種が存在することを見出した。国際イネ研究所において、プレッシャーチャンバー法によって、水通導性を測定した。また同時に供試品種であるOryza SNP品種群全20品種を用いた栽培試験を実施した。その結果、水通導性には統計的に有意な品種間差が存在し、さらに、マイルドな乾燥ストレス条件下で、根長、根系表面積を増加させたにもかかわらず、乾物生産が抑制された品種は、水通導性を低下させることを見出した。
3: やや遅れている
2012年乾季における降水量が、例年になく極端に少なく、非常に強い乾燥ストレスがかかり、根系が可塑性を発揮する程度より格段に強い乾燥ストレス条件となった。また、同様に、根系サンプリングに際しては、地下水を汲み上げて土壌を湿らせて実施する予定であったが、一部の圃場で、地下水位が低すぎて汲み上げることができずに、根系サンプリングを断念せざるをえない事態が発生した。
当初の予定通り、2013年の雨季ならびに乾季における圃場試験を実施し、3年間の圃場試験データを蓄積し、年次変動ならびに異なる降水量地域での試験結果から、遺伝子型 × 環境 相互作用を評価する。土壌硬度と土壌水分率の関係についてはこれまでの調査では不明な点が多かった。そのため、最終年の実験ではこれまでの成果を踏まえたうえで、データ計測地点を大幅に増やすことによって、より詳細に変動を評価する。さらには、現在育成中の、日本晴をバックグランドにし、根系の可塑性は非常に強いことがわかっているKDML105の染色体断片を導入した系統群の形質評価を実施する。また、これまでに得られた結果を基に、土壌硬度×土壌水分の相互作用が根系発達と吸水機能に及ぼす影響を定量的に評価するモデル実験を開始したので、その実験を繰り返して、圃場試験の結果と比較する。以上の結果を総合し、それぞれの栽培地域の条件下で最大生長・収量を保障する形質を有する理想型根系を提案し、関連QTLと環境要因との相互作用を評価することによって、実用性を有した品種育成に向けた今後の研究方向を提示する。
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Field Crops Research
巻: 144 ページ: 288-296