研究概要 |
我々は先行研究より、カリフォルニアで採取した大気中揮発性成分中に親電子物質が存在することが示唆された。また、1,2-NQのような親電子物質がGAPDHやPTP1Bのような反応性システイン残基を有するタンパク質に共有結合して本活性を阻害することを見出している。そこで本年度は、ケミカルバイオロジー的手法により、大気中揮発性成分に含有されている親電子物質の有無を検出するアッセイを検討した。 2010年9月にロサンゼルスを訪問し、SCPCメンバーに対する本研究の紹介と共同研究打ち合わせ、サンプリング予定地域の状況調査、サンプリングに必要なトレーターの下見、機材運搬の確認、サンプル回収後の作業確認等を行った。 得られた大気中揮発性成分をPTP1BおよびGAPDHと反応して、本サンプル中に含まれる親電子物質の化学修飾(クリックケミストリーおよびMALDI-TOF/MS分析)およびそれに起因する酵素活性の変動を調べた。その結果、大気中揮発性成分はそれぞれのセンサータンパク質に共有結合して酵素活性を低下することが明らかとなった。大気中揮発性成分をA549細胞に曝露すると、PTP1Bの活性低下に伴うEGFR/ERKシグナルの活性化が生じた、さらに、大気中揮発性成分をRAW264.7細胞に曝露すると、転写因子Nrf2が活性化され、その下流遺伝子群の発現誘導が観察された。一連の現象は酸化ストレスによるものでないことも確認された。以上より、今回用いたアッセイ系により、間接的に大気中揮発性成分に含まれる親電子物質を検出できることが示唆された。
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