産業の発達に伴い、化石燃料の燃焼等により発生する大気汚染物質の生体影響が危惧されている。我々は先行研究により、大気汚染の深刻な地域であるアメリカ南カルフォルニアで採取した大気中揮発性成分中に親電子物質が存在することを明らかにした。一方、生体はそのような反応性の高い化学物質から身を守る感知・応答の適応システムを有していることが考えられる。実際、南カルフォルニアで採取した大気中揮発性成分にヒト気管支上皮由来BEAS-2B細胞を曝露後、網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)、シスチン/グルタミン酸トランスポーター(xCT)、グルタミルシステインリガーゼ軽鎖 (GCLM)などの解毒代謝に関わる遺伝子群の誘導が主に観察された。そこで本年度は、大気中揮発成分に対する転写因子Nrf2を介した細胞の防御応答システムについて詳細に検討を行った。南カルフォルニア大学付近にて採取した大気中揮発性成分にBEAS-2B細胞を曝露したところ、Nrf2の活性化が観察され、抗酸化剤応答配列(ARE)の転写活性化が有意に増加した。同条件下において、ARE下流のHO-1、xCT、GCLMなどの発現がmRNAレベルおよびタンパク質レベルにて誘導された。更に、大気中揮発性成分によるNrf2の活性化は、当該成分をグルタチオンで前処理することによって抑制されたことから、大気中揮発性成分によるNrf2の活性化には親電子物質が少なくとも一部関与していることが明らかとなった。
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