研究課題/領域番号 |
22406006
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
馬 寧 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 教授 (30263015)
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研究分担者 |
川西 正祐 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (10025637)
井上 純子 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 准教授 (20378657)
大西 志保 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 助手 (80511914)
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キーワード | ヒ素 / 発がん / 炎症 / ニトロ化ストレス / 臨床疫学 / がん幹細胞 / HaCaT細胞 / バイオマーカー |
研究概要 |
地下地層にヒ素が含まれる地域では、ヒ素の自然環境汚染・ヒトへの健康影響が深刻である。ヒ素中毒では炎症をともなうため、炎症細胞などから活性酸素・窒素種が生成され、8-ニトログアニンなどの変異誘発性DNA損傷塩基を生成して発がんをもたらすと考えられる。 昨年に引き続き、中国山西省の地下水ヒ素汚染の疑われる地域の住民を対象とした検診・採血・採尿を行い、本年度は、さらに広範囲の井戸水のヒ素濃度を測定した。対象住民190名から尿・血液を採取し、酸化的DNA損傷の指標である8-oxodGを測定し、皮膚病理変化および生活習慣(喫煙、飲酒、職歴、外出習慣など)との関係を解析した。 その結果、長期低濃度ヒ素曝露群(汚染地域に長期居住し、出稼ぎなど対象地域外への外出が少ない女性住民)では、尿中のヒ素濃度と8-oxodG量が高いことが明らかになった。皮膚色素脱落・沈着および角化など病理変化が観察されたヒ素曝露患者では、尿中8-oxodG量が正常対照組の約2.8倍の高値であった。また、ヒ素中毒患者の末梢血徐標本では好中球の核に8-oxodGの強い免疫陽性反応を確認し、皮膚の病理変化との関連性について解析中である。 さらに、ヒト表皮角化細胞由来HaCaT細胞を用いて、ヒ素0.05ppmを含む培地中で16週間以上培養し、経時的に8-ニトログアニンおよびがん幹細胞マーカーの免疫染色を行った。その結果、各時期の一部のヒ素暴露皮膚細胞において8-ニトログアニンの生成を認めた。また細胞をヒ素含有培地中で長期培養することにより、腫瘍形成能を獲得させることに成功した。この細胞をヌードマウスに接種し、発生した腫瘍組織を用いてがん幹細胞を解析している。c-Myc,Racl,CD34,CD44,CD133などのマーカーを用いた解析や、損傷DNA塩基の解析を、現在進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外研究協力者の協力による、生活用水のヒ素濃度測定、ヒ素中毒患者の血液、尿および臨床データの収集は順調に進展している。中毒患者の皮膚病理診断用の標本収集と癌病理標本の収集のために、地域の各病院に引き続き協力を求めている。収集試料の解析、培養細胞や実験動物を用いた解析も順調である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ヒ素曝露により悪性化した培養細胞とヌードマウスを用いて、ヒ素による発がん・悪性化の機構解明をめざす。また、ヒ素汚染が懸念される地域の地下水ヒ素濃度を調査し、さらに数多くのヒ素中毒患者の標本を収集し、解析を進める。一方、中国では現在、工場などにおける職業性ヒ素中毒が重大な問題になっている。我々はすでに、職業性ヒ素中毒患者の試料を250例収集しており、血液・尿中のヒ素濃度、炎症因子、DNA損傷マーカなどの測定を始めている。生活用水の汚染による低濃度ヒ素曝露の慢性中毒患者と、職業性の比較的高濃度のヒ素曝露による慢性中毒患者を、多方面から比較解析することにより、ヒ素による発がん・悪性化のリスク評価をめざす。
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