近年のヒトならびに水産家畜現場における抗菌剤使用の濫用は薬剤耐性菌の生態環境中における蔓延と薬剤耐性病原菌による感染症の増加をもたらした。これは感染症治療に対して選択可能な薬剤を大幅に制限することとなりこれへの対応は喫緊の課題となっている。そこで本研究では、耐性菌蔓延の実態とその機構を明らかにするべく、抗菌剤使用、環境中の薬剤耐性菌分布、さらには薬剤耐性感染症起因菌の拡がりとこのような高い健常人の耐性菌保菌率とがどのように関連しているかをタイ地方村落をモデル地域として調査解析し、その因果関係の解明を図った。 最終年度となる平成24年度では、研究初年度ならびに2年目の研究成果を踏まえ、また、予備調査研究での結果から、タイ・ラオス国境近辺での耐性菌の住民罹患率ならびにその性状解析を行った。Sawanakate Province特定集落村民の糞便検体を検討した結果、70%もの参加住民糞便からESBL産生陽性(CTX-M型)の腸内細菌が検出された。検出されたESBL産生菌の90%は大腸菌であった。研究参加者住民の85%が過去1年以内に抗生物質の服用経験を持っており、非服用者が限定されているため、両者で耐性菌罹患率の間に統計上の差が認められなかった。本年度の調査研究でも前年度までの調査研究と同様、異なる地域における住民の極めて高い保菌率が示された。このような高いESBL保菌率は、今回実施したタイ・ラオス国境地域での調査研究結果からも、ESBL産生菌の蔓延は特定の地域に限定されたものでは無く、インドシナ半島に広く共通する事象であることが示唆され、近隣諸国における広範囲な調査研究による確認の必要性が明らかとなった。これら成績の一部は、国内学会ならびに査読科学雑誌で発表した。
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