研究概要 |
メタボリック症候群(MS)は食生活と生活様式の都市化に起因する文明病とも位置づけられている。アジア諸国の中でも最貧困地域を抱えるバングラデシュ国の農村部の女性におけるMSの増加が我々の先行研究にて明らかにされた。そこで同地域の女性を対象とする人口統計調査、身体計測、血液学的検査、疾病等の健康/疫学調査、食生活や家族/生活/労働状態等の社会経済学的調査を行い、MSや心血管病に関連する事が懸念されるアジア地域での糖尿病や、心血管疾患などに対する予防対策への有効活用、更に日本人データとの比較検討を目的として、将来の前向きコホート研究や、人種/地域性/性別を考慮した生活様式、食習慣、薬物等における介入研究へと発展させる基盤を形成する。 今年度、我々は当初の研究計画に伴い、バングラデシュにおける調査情報資料と検体収集、日本への検体輸送、日本での測定解析作業を行った。バングラデシュの農村部女性に関するメタボリックシンドローム(MS)の罹患率と関連リスク因子に関する調査として、8,700名の女性に対するスクリーニングを完了し、一部は解析作業を終了した。 その結果、MSの診断基準は複数あるが、低HDL血症は、各種のリスク因子の中でも最も高率な所見であり、一方、基幹的診断基準とされるウエスト径増加は、最も低率な所見であることが判明した。バングラデシュ国の農村部女性において、加齢もまた、MSの発症に重要なリスク因子の一つであった。経済状況との関係では、高所得者層や土地所有者・敷地面積が広い家を有する回答者にMSは高率である傾向が見られた。教育歴との関係では、受けた教育レベルの高い回答者は、MSの罹患率が低かった。また当研究では、血中のVEGF、可溶性VEGF-R1、可溶性VEGF-R2の発現レベルを、MS患者と健常者(non-MS)とで比較した。その結果、血中VEGFレベルには、健常者に比べてMS患者では上昇が見られた一方、受容体の発現はMS患者において低下していた。臓器内微小循環系に関連する主要分子群であるVEGFシグナル伝達系の中断が、バングラデシュ国の農村部女性におけるメタボリックシンドロームや、その心血管合併症の発症と進展に大きく寄与している可能性が示された。
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