ヘリコバクター属のピロリ菌とハイルマニ菌は共に、胃内に生息するグラム陰性らせん状菌である。ピロリ菌は全世界で人口の50%以上に感染し、慢性胃炎、胃癌、胃・十二指腸潰瘍、胃MALT リンパ腫等多様な疾患に関与している。ピロリ菌感染による疾患多様性にはピロリ菌のゲノム多型が関与していると考えられている。一方、ハイルマニ菌は人畜共通に感染し、慢性胃炎や胃MALT リンパ腫に関与していることが認められているが、これまで培養に成功しておらず感染の疫学的状況や病態は全く解析されていない。本研究ではアジア・アフリカにおけるピロリ菌及びハイルマニ菌感染と消化器疾病構造を疫学調査すると共に、採取した菌のゲノム解析を行い、疾患発症を規定する宿主・環境・菌体因子を明らかにすることを目的としている。今年度は、韓国、中国、タイでの現地調査を行うとともに、最終年度であり、本研究で収集したアジア諸国のピロリ菌の全ゲノム解析を行い、他の世界各国から報告されているゲノムと比較検討した。胃がん死亡率の高い東アジアの(日本、韓国)ピロリ菌のゲノムは、欧米と大きく異なっており、病原因子CagA遺伝子以外に、膜蛋白遺伝子に違いが認められ、宿主応答に対する違いが想定された。ハイルマニ菌については、ピロリ菌と異なる宿主の免疫応答が認められた。すなわち、ピロリ菌感染ではTh1優位であったが、ハイルマニ菌では、Th2優位であった。ハイルマニ菌の遺伝子解析では、ハイルマニにも4型分泌装置を構成する遺伝子の存在が認められ、pathogenicity islandの存在することが考えられた。
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