研究概要 |
カンボジア王国は多くの紛争や知識人の虐殺から隣国に比べ経済発展が遅れ海外からの経済支援を受けている。医療や歯科医療も海外からの支援によるところが大きい。そのような背景から歯科医師不足や高額な治療費ゆえ小児齲蝕の治療は皆無であり,歯科医療支援として予防処置を含むものの,重症化した齲蝕に対する抜歯が未だ多い。 カンボジアの子ども達の齲蝕罹患や食習慣の現状を把握し,その予防対策の検討を経年的に実施することにより,一地域の歯科疾患調査全土への展開の足がかり,環境に伴う齲蝕・歯肉炎発症因子の解明,齲蝕・歯肉炎予防に貢献することを目的として初年度調査を実施した。シェムリアップ州サムロン・スバーン村の3歳,5歳および12歳の603名に対して口腔内診査および生活環境に関するアンケート調査を実施した。口腔内診査は歯科疾患実態調査に従い,2名の歯科医師が同一基準で齲蝕,歯肉炎,不正咬合,歯牙異常について診査した。また,アンケート票は健診前に健診該当者の保護者へ配布し,調査員による聞き取り調査を実施した。得られた診査票とアンケート票から記載漏れ等の不備があった者を除外し,合計518名(男児245名,女児273名)を調査対象とした。その結果,1.齲蝕のない者:3歳児7名(4.3%),5歳児3名(1.4%),12歳5名(3.6%)であった。2.齲蝕有病者率:3歳児95.6%,5歳児98.6%,12歳96.4%であった。3.3歳児のdft:8.9,5歳児のdft:11.8,12歳児のDMFT:5.0であった。4,齲蝕処置歯率:3歳児0歯(0.0%),5歳児1歯(0.004%),12歳児7歯(0.007%)であった。以上から,カンボジア・シェムリアップ州サムロン・スバーン村の小児の齲蝕罹患率は本邦に比べ非常に高い傾向が認められ,処置歯率は極めて低い傾向が示された。また,歯垢の沈着が著しい小児が多数認められ,歯磨き習慣が皆無に等しいことが示唆された。今後はその背景にある生活習慣についてアンケート結果を集計し,予防プログラムの確立に向け改善点を探る予定である。
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