日本人と韓国人は、遺伝子的変異を示す標準的SNP頻度の解析から同じモンゴロイド人種の中でも遺伝子的に極めて近縁な関係にあることが示唆されている。一方で、食生活を始めとした生活習慣や医療保険制度を含む社会保障体制など両国間の背景要因には数多くの相違点がある。口腔保健に関する両国の国家統計調査を比較すると、日本の成人に比べて韓国の成人の方が齲蝕経験歯数や深い歯周ポケット保有者率が低いなど口腔保健状況は良好である。しかし、両国の口腔保健調査における診査基準は必ずしも統一されていない。 本研究の目的は、日韓両国で比較可能な口腔保健に関する疫学データを整備し、さらに両国の医療保険制度や歯科保健対策、また住民や医療者側の口腔保健に対する意識など社会的な背景要因について調査分析することで、両国間の口腔保健状態の違いに影響を及ぼす要因を総合的に検証することである。 研究遂行にあたり、両国での疫学調査の対象地域や調査方法を決定する必要があり、そのために両国で行われてきた調査内容や調査結果を検討することは有意義である。そこで、韓国で大規模な口腔疫学調査を実施しているソウル大学予防歯科の研究者と、両国の疫学調査の実情や背景についての情報交換を行った。また、韓国口腔健康調査における診査者間の信頼性確保の訓練が韓国口腔衛生学会主催によりカンヌン大学で行われ、同訓練に日本から複数の調査者が参加し、韓国での口腔疫学調査の実施方法や調査データの信頼性確保の実態を確認した。これらは、今後に実施する両国の疫学調査の調査項目や調査データの信頼性確保のための方法を決定するために有用な情報となるものである。
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