研究概要 |
計算幾何の古典的問題のうち、「円内接多角形問題」を取り上げた。これは、「円に内接する多角形の各辺の長さをa_1, a_2,…,a_nとするとき、外接円の半径をこれらの変数の式で表せ」という課題であり、その成果は、以下の2点である。 (1)江戸時代の和算家が五角形に対する正しい解をすでに得ていたことを立証した。 (2)六角形・七角形にまで計算を進め、現在のコンピュータでも限界と思われる巨大な公式を(おそらく世界で初めて)求めることに成功した。 この問題については、Heronの公式(三角形,1世紀)、Brahmaguptaの公式(四角形,7世紀)が知られていたが、五角形に対しては長く未解決で、D.P.Robbins(1994)およびP.Pech(2004)が初めて、半径を与える7次方程式を具体的に導いたとされる。 これに対して本研究では、井関知辰「算法発揮(1690)」における五角形に対する半径の計算を、現代の数式処理システムを用いて検証し、井関の計算の正当性を確認した。 さらに、和算家が用いたのと同様の「終結式による消去計算」の原理により、六角形・七角形へと計算を進めることが可能である。今回の科研費で導入したワークステーションでは、七角形の半径を与える38次方程式まで計算することができたが、これは、337,550,051項(約15GB)にもなる巨大な式であり、通常のパーソナルコンピュータでは計算不可能である。
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