本研究では,医療支援システムの構築を目的として,ユーザが入力した症状語句に基づき,インタラクティブに病気を推論し(症状・病名発想支援システム),ユーザの状況や病院の施設基準を考慮して,適切な病院を呈示するシステム(病院呈示システム)の開発と関連技術の検討を行った. 平成24年度は主に,本研究の主たる関連技術であるHKグラフにおける,自然言語処理技術に基づく機能・性能向上に関する検討を行った.また併せて,ユーザとのインタラクション性の向上を目指し,HAI(ヒューマン・エージェント・インタラクション)の最新研究・技術を取り入れた新たな可視化技術の開発に取り組んだ. 平成23年度後期に明らかとなった課題として,症状・病名発想支援システムにおける,想定以上の入・出力語句の揺らぎの大きさが挙げられた.一般のユーザが入力する症状語句について,適切な専門用語を入力することが困難であることはもちろんであるが,そもそも症状を語句として入力すること自体が困難であることや,用いる語句のばらつきの大きさが問題となり,症状や病名の発想支援が適切に行えないケースが多々見られた. そこで平成23年度には,辞書やSNS・ツイッターといった個人の日常的な事柄に関する記述を含むホームページのテキストを用いて,“概念”により,類似語句を集約する技術を開発した.これにより,類似語句のクラスタリングや概念を用いたラベル付けが可能となった.しかし依然として,ユーザの深層心理にある概念と,入力語句に付与する概念とのずれは大きく,本システムにおける自然言語処理の困難さが課題となった. そこで自然言語処理の分野で近年盛んに研究が進められている「トピックモデル」に着目し,症状語句をキーワード,病名をトピックとする新しいアプローチでの症状・病名発想支援システムを構築し,HKグラフに組み入れることに成功した.
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