研究の最終年度にあたる平成24年度においては、これまでに構築を行ってきたウェアラブル身体状態推定システムの有用性に関する検討を行った。まず最初に、身体バランス感覚の状態を利用者の頭部に設置した高感度な運動センサーにて推定するシステムについては、医療の現場にて広く用いられている重心動揺検査計を併用した計測実験を行い、軽運動負荷に伴う短期的な身体動揺運動が頭部においてのみ明確に観測されることを見出した。また、数か月間にわたる健康管理計測実験を行った結果、頭部運動計測により日常的な身体負荷に対する応答が観測されるのに対し、重心動揺検査や心拍数、血圧、といった既存の評価手法では身体状態と相関を有するデータは得られなかった。これらのことから、本研究による頭部動揺運動計測を用いたウェアラブル身体状態推定システムでは、既存の状態推定手法とは異なった指標が得られることが分かった。更には、従来の加速度センサーに代えて、高感度な角速度センサーの適用を試みた結果、20人規模の被験者における運動評価パラメータの間に強い相関があることが見出された。ここで、角速度センサーではその計測原理から、頭部であれば任意の位置に設置できることから、いつでもどこでも気軽に身体状態をチェックできるシステム実現の可能性が見出された。 一方、本研究において作成した高感度運動センサーを用い、身体状態推定に関する新たなアプリケーションの検討を行った。その結果、習熟に時間を要する楽器演奏のような運動において、初学者と中級者とを容易に見分けることのできる運動様態が存在していることが分かった。ここでは、楽器を操作する手指に直接運動センサーを装着するのではなく、自然な演奏運動をほとんど妨げることなく計測を行い、その結果を学習者にフィードバックすることで、演奏技法の上達状況を身体運動状態にて評価することの可能性が示された。
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