研究概要 |
1.PCに精通していない医師や言語聴覚士にも広く利用してもらうことを可能にするため,ブラウザで動作するweb applicationの形式で音声障害の音響的評価を行うシステムを構築する作業を進めた。編集画面の一部,およびセッション管理による認証機構の実装を終了した。 2.音声障害の音響的評価において最も基本になる,音声信号のジッタ,シマ,喉頭雑音(加法的雑音)の分析精度を評価するために,各パラメータを高精度で制御できる音声合成方式を開発した。 3.開発した音声合成ソフトウエアで,ジッタ,シマ,喉頭雑音の量を多段階に制御して合成音声を作成し,現在世界的に広く利用されている(デファクトスタンダードになっている)ペンタックス社のMDVPシステム,アムステル大学で開発されたPraatシステム,宇都宮大学で開発されたL-Voiceシステムの性能を比較評価した。その結果,ジッタ,シマの測定では3者に大きな違いはないが,喉頭雑音量の測定では,L-Voiceが最も優れており,MDVPでは4dBものRMS誤差があることが分かった。 4.喉頭疾患患者の音声186例と対照群になる50歳以上の健常者音声190例を用いて,病的/正常の判別という観点から,前述の3種類の評価システムを比較検討した。その結果,ジッタではMDVP,シマではPraat,全周波数帯域の喉頭雑音ではPraatがそれぞれ一番よい成績を示した。しかし,L-Voiceだけに実装されている高周波数帯域での喉頭雑音量の評価値が全体では一番よい成績を示した。 5.音声障害を訴えて福島県立医科大学の耳鼻咽喉科を受診した患者の音響分析を含む種々の音声機能を検査・評価した。治療後2ヶ月でも検査を行い,検査資料の蓄積を図った。次年度はこの臨床資料を用いて治療効果の評価の有効性について検証する。
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今後の研究の推進方策 |
音声障害の質・程度の分類法の検討を終了し,これまで得た成果と組み合わせて,今秋までに,ブラウザベースの音響的評価試験システムを完成する。その後,臨床的な評価を行いながら,システムの改善を図る。全体をまとめて学術誌に公表するとともに,ブラウザベースの音響的評価システムを一般に公開する可能性とその場合の課題について検討する。
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